#215 VCファンド・オブ・ファンズをめぐる真実と誤解 (3)
先週、2歳半の娘を連れてサンフランシスコ近代美術館(SFMoMA)に行ってきました。ジャクソン・ポロックをはじめ、さまざまなアートが楽しめる場所ですが…やはり予想通り、絵にはほとんど興味なし。館内を走り回り、作品に近づきすぎて注意されることもあり、なかなか大変でしたw。それでも、大きなオブジェには少し興味を示していたので、一応 “美術館デビュー” は果たせたかなと納得しています。とはいえ、次にまたSFMoMAに行くのはしばらく先になりそうです!

SFMoMaで興味を持ってくれた作品の一つ
過去2週間にわたり、「VCファンド・オブ・ファンズをめぐる真実と誤解」シリーズ(1)および(2)を通じて、ファンド・オブ・ファンズに関する一般的な誤解とその実態について述べてました。第一回目の記事ではリターンのプロファイル、第二回目では単なる金融商品ではなく情報商品としての役割について取り上げました。そして今回の最終回では、総コストの考え方について考察したいと思います。
ITコストが増加しているとはいえ、ほとんどの投資組織において最大のコストセンターは依然として人的資源です。優れた人材とそれぞれパソコンさえあれば、投資組織は機能します。しかし、より重要なのは人的資源をどのように最適に配分するかという点です。
例えば、アメリカの年間予算が10億円の組織を考えてみましょう。仮に2名の社員を雇って、その給与、出張費、オフィス賃料、その他の運営費を合計すると、年間1億円くらいは必要になります。つまり、投資に回せる資金は9億円であり、全体予算の10%がコストとして消費されることになります。
ここで、この組織がベンチャーファンド投資の価値を認識し、実際に投資を行うと決めたとします(このシリーズの前回の記事を読んで決意したのかもしれないですね!)。ベンチャーファンドへの投資は、米国の投資家の間では単なるリターン獲得の手段を超え、ディールソーシングや市場情報の獲得を目的とした戦略的ツールとして確立されているからです。この場合、この組織は次の3つの選択肢を検討することになります:
1. ファンド投資の専門家を新たに採用する
2. 既存のチームにファンド投資業務を兼務させる
3. ファンド・オブ・ファンズに投資し、専門性を補完する
最初の選択肢である専任スタッフの採用は、一見すると合理的ですが、実際には難易度が高く、コスト負担も大きくなります。適切な人材を見つけるまでに少なくとも数カ月を要し、間違った採用は組織全体に長期的な悪影響を及ぼしかねません。仮に優秀な人材を確保できたとしても、米国における給与、福利厚生、運営コストを考慮すると、シニアアソシエートからプリンシパルレベルの人材で年間最低でも20万〜30万ドル(約3,000万〜4,500万円)の追加コストが発生します。
多くの組織がコスト削減の観点から、2つ目の選択肢である「既存のチームにファンド投資を兼務させる」方法を取ります。しかし、ファンド投資にはまったく異なるスキルセットが求められます。スタートアップ投資とファンド投資は、ソーシングのプロセスこそ類似しているものの、デューデリジェンスの手法は根本的に異なります。A16ZとBenchmarkの違いを明確に説明できる人はどれほどいるんでしょうか。経験、ノウハウ、そして何より時間を必要とします。もちろん、無限の時間があれば誰もが習得できるかもしれないが、現実には時間こそが最も希少な資源です。
そこで、3つ目の選択肢であるファンド・オブ・ファンズへの投資が浮上します。新たな人材を採用することなく、また既存のチームに過度な負担をかけることなく、最も時間を要する業務(ソーシングとデューデリジェンス)を外部に委託する手法です。では、コストはどうか。ベンチャーファンドとは異なり、FoFsの管理手数料は通常1%程度です。仮に5億円をFoFsに投資するとすれば、年間管理コストはわずか500万円にすぎません。これは専任スタッフを雇用するコストのごく一部でありながら、既存のネットワーク、専門知識、市場インサイトを活用できる点で圧倒的に効率的です。
もちろん、すべての投資家にFoFsが適しているわけではありません。十分な予算があり、自らチームを編成して内部でFoFsの機能を構築したい場合、それもまた有効な戦略となります。しかし、多くの場合、全体コストの観点から見ると、FoFsは魅力的な選択肢となり得ます。新しい機能をゼロから築く負担なく、短期間に投資戦略を強化できるためです。さらに重要なのは、資本・知識・ネットワークをレバレッジし、より良い投資機会へのアクセスと長期的リターンの向上を実現できる点にあります。
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これで「VCファンド・オブ・ファンズをめぐる真実と誤解」シリーズは完結となります。このシリーズを通じて、FoFsが単なる金融商品ではなく、ベンチャー投資のエコシステムにおいて戦略的ツールとして機能することを理解する一助となったなら幸いです。投資家にとって重要なのは、ファンドに投資するか否かではなく、いかに投資効率を最大化しながら、情報の非対称性を克服し、長期的成功に向けた最適なポジショニングを確立するかという点です。競争が激化し、情報が資産となる投資環境において、ファンド・オブ・ファンズは依然として強力なツールであり続けると思います。
このシリーズが少しでも共感を呼んだのであれば、とても嬉しく思います!
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