#83 最近注目のレイト・ステージ・スタートアップへの投資手法

不況に注目を浴びるストラクチャード・エクティ
46(Youngrok) 2022.08.08
誰でも

先週、父になりました。40近い歳になっての初めての子供です。生後4日目ですが、本当に1日1日が違って、毎日の成長を楽しんでいます。特に赤ちゃんがものすごく好きというわけではなかった自分ですが、今は「親バカ」という言葉を身をもって懸命に実践しています。さすがに夜は寝たいものの、なかなか寝かしてくれず、毎晩数時間しか寝れない日が続いていますが、これも今だけのものだと思ってそれさえも楽しみたいと思います!

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ここ最近、上場テック企業のみならず、スタートアップのバリュエーションも急落し、特にレイト・ステージ・スタートアップの資金調達環境がかなり難しくなってきています。しかし、前回の記事「#80 今は優良スタートアップのセール期間中」でも述べたように、投資家にとっては、優良スタートアップに安く投資できる良い環境になってきています。

それら優良スタートアップに投資する最もわかりやすい方法は、低いバリュエーションで投資をすることです。しかし、当然スタートアップの立場からすると、それは理想的ではありません。彼らはより多くの持分を諦める必要がありますし、何よりも「ダウン・ラウンドされたスタートアップ」というレピュテーションもついてしまい、人材採用などの活動において苦労をする可能性も出てきます。これはあまり良くないスタートアップにとっては、それほど重要ではないでしょう。しかし、成長目標を着々と達成してきて、よりインパクトのある成功を収めるまであと数歩のみ残っているスタートアップにとっては、これはあまり好ましくないことなのです。

ストラクチャード・エクイティ(Structured Equity)は、そうしたスタートアップにとって良い解決策になり得ます。広義のストラクチャード・ファイナンスの領域には様々な種類やストラクチャーがありますが、通常ベンチャー・キャピタル投資におけるストラクチャード・エクイティは、株を発行する一般的なエクイティ・ファイナンシングと、最近日本でも注目を浴びているベンチャー・デット・ファイナンシングとの間に位置する資金調達方法となります。

まず、スタートアップの観点からすると、ストラクチャード・エクイティは、ベンチャー企業が現段階での持分を希薄させることなく資金の調達を可能にします。その代わり、ベンチャー・デット・ファイナンシングのように利息を払い、また、IPO時など、バリュエーションが高くなるだろうである未来の時点で(従って、より少ない希薄で)、持分を譲ってあげれば良いです。投資家の立場からすると、負債部分を通じて一定のリターンを得ることができるとともに、株式の持分も得ることができるので、スタートアップ・投資家の両方にとってWin-Winとなる資金調達手法になり得ます。

最近の最も有名なストラクチャード・エクイティは、AirBnBでしょう。彼らは、2020年初頭のパンデミックの始まりに、著名プライベート・エクイティ・ファームであるSilver LakeとSixth Street Partnersから$1B(約1,350億円)を調達しました。このディールでこれら二つのプライベート・エクイティ・ファームは、5年間にわたり年利11~12%を獲得し、1%強の持分を取得しています。

現在、$2B(約2,700億円)のストラクチャード・エクイティに特化したファンドを調達している著名クロスオーバー投資家であるCoatue(コートゥ)によると、ストラクチャード・エクイティは景気後退期にはるかに良いパフォーマンスを発揮するそうです。下の図の通り、テックバブルの時も世界金融危機の時も、ストラクチャード・エクイティの方が通常のエクイティよりも良いパフォーマンスを出しています。

Coaute(コートゥ)の資金調達資料では、金融危機の時にはストラクチャード商品がうまくいくと説明している

実はストラクチャード・エクイティのファンドを調達しているのはCoatue(コートゥ)だけではありません。著名レイト・ステージ・VCファンドであるInsight Partners(インサイト・パートナーズ)も$1.5B(約2,020億円)のストラクチャード・エクイティ・ファンドを調達中です。AirBnbへの投資で成功したことを考えれば、これは驚くべきことではないでしょう。

これは個々のスタートアップの観点からは、理想的とは言えないかもしれません。当然、複雑な構造や付加的なリスクなしに資金を調達する方が良いからです。ストラクチャード・エクイティの場合、もしスタートアップがうまくいかなかった場合、投資家に大きな持分を譲る必要があることが多く、あまりポジティブに考えない人たちも大勢います。

しかし、私はスタートアップ市場全体を長期的な目線で考えると、今このようなストラクチャーが広まるのは大いにプラスだと思います。手段はともあれ、必要最低限の資金を提供することで、多くの健全な優良なスタートアップが今の困難を乗り越え、目指していたイノベーションを世の中に持ち込むことができるからです。さらに重要なことは、彼らが生き残ることで、スタートアップ市場に対する自信をもたせ続けることができ、スタートアップを通じたイノベーションを促進し続けることができると思います。

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