#231 スタートアップ・アクセラレーターの時代は終わりか

苦戦するアメリカのスタートアップ・アクセラレーター
46(Youngrok) 2025.06.16
誰でも

先週末は結婚記念日でした。久しぶりに妻と子どもたち抜きで二人だけで外出し、美味しいディナーをたべてきました。考えてみると、こうして子どもなしで二人きりの時間を過ごしたのは、ちょうど1年ぶりでした。去年の結婚記念日以来一度もなかったと思うと妻に申し訳ない気持ちにもなり、これからは少なくとも四半期に一度は二人で出かける時間を作ろうと思いました!

アピタイザー

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2010年代初頭、モバイルやクラウド技術の普及により、スタートアップの新たな黄金時代が幕を開けました。この時期に生まれたAirbnb、Uber、DoorDashなどの革新的な企業は、私たちの日常に欠かせないサービスとなりました。これらのテクノロジーは急速に私たちの生活に浸透し、日常を一変させました。

こうしたスタートアップの成長において重要な役割を果たしたのが、スタートアップ・アクセラレーターでした。2005年に設立されたYコンビネータ(Y Combinator)がその先駆けとなり、その後、2006年にはテックスターズ(Techstars)やプラグアンドプレイ(Plug and Play)、2010年には500スタートアップス(500 Startups)、2012年にはアルケミスト(Alchemist)などが登場しました。これらのアクセラレーターは、2010年代のスタートアップ・エコシステムの発展に中心的な役割を果たしました。Coinbase、Stripe、Instacart、DoorDashなどの企業はYCを経由して成長し、SendGridやZiplineはテックスターズ、Dropboxはプラグアンドプレイで初期の基盤を築き、東南アジアのGrabは500スタートアップスを通じて成長を遂げました。

しかし現在、多くのアクセラレーターはかつてのような名声を維持できていません。Googleトレンドによると、アメリカではここ約5年間で「スタートアップ・アクセラレーター」への関心が徐々に低下しています。実際にスタートアップ側も、アクセラレーターへの参加を成功の必須条件や信頼性を高める手段として捉えなくなってきています。

Google Trend: Startup acceleratorトピック

Google Trend: Startup acceleratorトピック

唯一、Yコンビネータだけが依然として業界の注目とリスペクトを維持しています。以下のWebトラフィックのチャートからもわかるように、YCと比較すると他のアクセラレーターの存在感はかなり小さいです。これは、数多くの成功事例とギャリー・タン(Garry Tan)のようなダイナミックなリーダーシップによるものですが、現在のYCでさえ将来は不透明です。YCのWebトラフィックは過去2年間停滞しており、ブランド成長の勢いが衰えている可能性を示しています。そのため、今後もYCが現在の名声やリーダーシップを維持できるかどうかは、スタートアップ市場の重要な観戦ポイントとなるます。

主要アクセラレーターのウェブトラフィック(出所: SimilarWeb)

主要アクセラレーターのウェブトラフィック(出所: SimilarWeb)

一方で、小規模で特化型のアクセラレーターが台頭し、従来のモデルに挑戦しています。最近もっともの人気のあるバイブコーディングプラットフォーム「Cursor」で知られるNeoは、その特化型の方向性をよく表しています。また、Facebook初期のエンジニアであるアディティア・アガルワル(Aditya Agarwal)が設立したSouth Park Commonsも、良いブランドとレピュテーションを得ています。まだ顕著な成功例はないものの、AI特化型アクセラレーターとして注目を浴びているHF0も話題を集めています。

こうした変化は、規模の大きいジェネラリストのアクセラレーターがスタートアップ設立・運営に関する知識が民主化された現代では苦戦する可能性を示しています。2010年代初期とは異なり、今日の起業家はオンライン上で膨大な情報に簡単にアクセスできます。今後アクセラレーターが提供できる差別化された価値は、一般的な起業家教育ではなく、より専門的な知識や起業家同士の深いつながりにあると思います。

私たちはアクセラレータープログラムに投資したことはなく、現在のような一般的なモデルでは今後も投資しないと思います。しかし、高度かつ特定の専門性を持ち、本当に意味のある起業家コミュニティを構築できる新たなモデルのアクセラレーターには、今後のベンチャーキャピタル市場において重要な役割を担うチャンスは十分にあると考えています。

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