#213 VCファンド・オブ・ファンズをめぐる真実と誤解 (1)

VCファンド・オブ・ファンズのパフォーマンス再評価
46(Youngrok) 2025.02.10
誰でも

今週末は両親が来ていたおかげで、久しぶりに夜の自由時間を持つことができました。子どもたちを寝かしつけた後、友人、妻、そしてちょうどトロントから出張で来ていた姉と一緒に、サンフランシスコのバーへ出かけました。おそらく1年ぶりの夜遊びだったと思います。  

そこで改めて気づいたのは、実はサンフランシスコにもまだまだおしゃれな場所やヒップな人たちがたくさんいるということ!普段はどこに隠れているのかと思いつつ、久しぶりに楽しく一杯飲みながら、充実した時間を過ごしました。頻繁に行きたいとは思わないものの、こうしてたまに出かけるのも悪くないですね。

Arcanaというワインバー。最初はお花屋さんとして始めたとのことです。

Arcanaというワインバー。最初はお花屋さんとして始めたとのことです。

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日本をはじめとするアジアのキャピタルマーケットでは、「ファンド・オブ・ファンズ(Fund of Funds)」という概念がまだ広く知られていません。特にベンチャーキャピタル(VC)の分野では、その存在自体が非常に馴染みの薄いものとなっています。例えば、プライベートエクイティ(PE)の分野では Asia Alternatives のようなファンド・オブ・ファンズが長年にわたり機関投資家のバイアウトファンドへのアクセスを提供してきました。しかし、VCアセットクラスにおいては、これに匹敵する確立されたプレーヤーは(政府系ファンドを除けば)まだ存在していません。

このような状況のため、経験豊富な機関投資家であっても、VC特化型のファンド・オブ・ファンズを適切に評価することは容易ではありません。多くの場合、バイアウトなど他のアセットクラスで用いられる評価基準をVCファンド・オブ・ファンズにもそのまま適用しようとしますが、VCの特性や投資手法は本質的に異なります。

私の知人であるPattern Venturesのパートナー、ジョン・フェリックス(John Felix)は、最近ファンド・オブ・ファンズに関する誤解を指摘する詳細な記事を執筆しました。Pattern Venturesは、私たち GREE LP Fundより1年遅れてロサンゼルスで設立されたファンド・オブ・ファンズです。彼の分析は、私がこれまで投資家の皆様に強調してきたポイントと共鳴するものであり、日本や韓国といったアジア市場でもより広く議論されるべき内容だと考えています。

そこで今後数週間にわたり、VCファンド・オブ・ファンズ投資のコアーな特徴について、一つずつ解説していきたいと思います。まず第一のテーマは、「ファンド・オブ・ファンズはリターンが低い」という誤解についてです。

VCファンド・オブ・ファンズのパフォーマンス再評価

VCファンド・オブ・ファンズに対する代表的な批判の一つに、「ダブルフィー(double fee)構造」があります。つまり、投資家は個々のVCファンドに対して管理報酬や成功報酬を支払うだけでなく、ファンド・オブ・ファンズ自体にも追加の手数料を支払う必要があるという点です。そのため、「直接VCファンドに投資する方が有利だ」という認識が広まっています。しかし、VCアセットクラスの特性を理解すると、この見方が必ずしも正しくないことが分かります。

私が2023年5月に書いた記事「#124 VC ファンド・オブ・ファンドの収益率が高い理由」でも触れたように、過去の実績を見るとVCファンド・オブ・ファンズは直接VC投資を上回るパフォーマンスを記録してきました。その理由は、VCというアセットクラスが 「リターンのばらつき(return dispersion)」が極端に大きいという特徴を持つためです。つまり、上位のVCとそうじゃばいVCのパフォーマンスの差が非常に大きいのです。そのため、VC投資においては優れたVCファンドを選び抜くことが何よりも重要となります。ファンド・オブ・ファンズは、VC市場に対するマクロな視点、広範なVCネットワーク、そして包括的な評価手法を活用し、優れた上位のVCファンドへの投資を可能にします。

これは、例えばバイアウトファンドとは全く異なる市場構造です。バイアウトファンドは比較的予測可能なリターンを示し、トップティアとミドルティアのファンドのパフォーマンスの差はVCほど大きくありません。そのため、プライベートエクイティの投資家は、複数のファンドに分散投資するだけで安定したリターンを期待できます。そのため、トップティアのVCファンドにアクセスできないのであれば、むしろバイアウトファンドに投資する方が合理的な選択となる場合もあります。

したがって、過去の記事で紹介した チャート(下図) にもあるように、VCファンド・オブ・ファンズの中央値リターンは、VCファンドの中央値リターンを上回っていることが確認できます。

ジョンの分析も、PitchBookのデータ を基に同様の結果を示しています。

  • 上位25%のファンド(Top Quartile):ファンド・オブ・ファンズは15のビンテージのうち8つで、直接VC投資をアウトパフォーム(outperform)し、平均0.27x TVPIの差を記録。

  • 中央値のファンド(Median Quartile)15のビンテージのうち14で直接VCをアウトパフォームし、平均0.68x TVPIの差を記録。

  • 下位25%のファンド(Bottom Quartile)すべてのビンテージで直接VCよりも高いリターン を示し、平均0.89x TVPIの差を記録。特に、下位25%のファンド・オブ・ファンズはすべてのビンテージで1x以上のTVPIを維持し、低パフォーマンスのVCマネージャーを回避する「リスクヘッジ効果」を証明。

これらのデータが示していることは明らかです。VCで成功することは非常に難しく、大半の投資家は意味のあるリターンを得ることができません。だからこそVCファンド・オブ・ファンズは重要な役割を果たすのです。分散投資によってリスクを軽減すると同時に、トップティアVCファンドへのアクセス機会を提供するためです。ダブルフィー構造であるにもかかわらず、実際には直接VCファンドよりも高いリターンを生み出すことが可能なのです。

今後数週間にわたり、ファンド・オブ・ファンズの他の側面についても詳しく解説していきますので、ぜひご期待ください!

References:

#124 VC ファンド・オブ・ファンドの収益率が高い理由 - https://note.com/vridge/n/nc5c7178757dd

The Fund of Funds Fallacy: Why LPs Need to Rethink Their VC Strategy - https://patternventures.substack.com/p/the-fund-of-funds-fallacy-why-lps

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