#226 CVCの新しいポジショニング
先週、久しぶりにボストンを行ってきました。もともと好きな街ですが、今回の短い滞在を通じて、改めて「やっぱりいい街だな」と感じました。サンフランシスコとボストンは雰囲気こそ全く異なりますが、人口規模や経済的な影響力の大きさ、物価の高さといった点では共通する部分も多く、そういった面に親近感を覚えるのかもしれません。

シーフードパスタ。ボストンはシーフードが有名。
ベンチャーキャピタル(VC)市場の競争は、かつてないほど激しくなっています。2020年、2021年、そして2022年前半まで続いた市場が盛り上がっていた時は言うまでもなく、市場が比較的落ち着きを取り戻した今でも、魅力的なスタートアップへの投資を巡る競争は依然として激しい状況です。
これはデータからも明らかです。過去10年間で米国のシリーズAラウンドの中央値投資規模は約350万ドルから1,170万ドルへと大幅に増加しましたが、ラウンドごとの平均投資家数は4.9人から5.4人へとわずかに増加したにとどまっています。つまり、投資家は数が増えたのではなく、各投資家の投資金額が増えただけです。シードステージはさらにこのトレンドが顕著です。シードラウンドの規模はかなり拡大したにもかかわらず、ラウンドごとの平均投資家数は5.5人から4.6人へとむしろ減少しています。
こうした環境において、VCは必要な投資枠を確保するために、資金以上の価値を提供する必要があります。特定の産業や技術分野に関する深い専門性、セールスやマーケティングなどのオペレーション能力、あるいはブランド認知度といった具体的な付加価値を提供することが求められます。例えば、トップティアの著名なVCであるファウンダーズファンド(Founders Fund)は、投資後に積極的にサポートを提供するわけではないですが、彼らがキャップテーブルに入るということ自体がブランド価値になり、創業者の十分な満足を引き出します。
こうした価値中心の変化は、CVCにとって成長のチャンスを生み出しています。差別化ができていない伝統的なVCは競争力を失い、徐々に存在感が薄れていく危機に直面しています。一方、CVCは基本的に戦略的な価値が提供できるため、独自のパートナーとしての地位を確立しつつあります。
日系CVCであるTDKベンチャーズの報告書によると、米国においてCVCが主導した投資案件の総額は27%増加し、投資件数も6%増加しました。2023年第2四半期時点でCVCが参加した米国の全ベンチャー投資比率は安定的に24.4%を維持しています。競争が激しくなってきている市場において、このような「安定的な参加率」自体が大きな成果です。

The State of Venture and CVCs by TDK Ventures
このような傾向は、ベンチャーキャピタル市場に新たな序列が形成されつつあることを示しています。明確な戦略的価値を提案できるVCが市場の最上位を維持し、その後を影響力が増しているCVCが続くことになるでしょう。明確な差別化ができていない既存のVCは、市場の周辺部に追いやられるリスクがあります。
CVCの成長は、総じてポジティブな現象だと考えます。これはスタートアップに戦略的な価値を提供し、(何もしないキャピタルに比べ)その成功可能性を高めることにつながるからです。競争が増しているリスクもリターンも高いベンチャー投資の世界において、資本以上の具体的な価値を提供することがこれまで以上に重要になっています。
Sources:
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The State of Venture and CVCs: Taking stock of the past 18 months by TDK Ventures - Link
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