#203 ベンチャーファンドはキャッシュフローの重要性を忘れがち
先週はアメリカの代表的な連休の一つである感謝祭でした。ちょうどその日にハワイで友人の結婚式があり、家族全員でハワイに出かけました。妻も新郎と仲が良いので、2歳半の長女と生後4ヶ月の次女までみんなで一緒に行きましたが、予想していた通り、リラックスするような休みとは程遠いものでした。これで友人の結婚式は最後か?と思いながら楽しく祝い、長女が楽しそうに遊んでいる姿を見ながら、大変ですが来て良かったと思っています。 しかし、子供が大きくなったら、ぜひもう一度来てゆっくりとした過ごし方も体験してみたいですw
友人の結婚式があったHaytt Kauaiのロビー
キャッシュフローは会社の経営において重要な要素としてよく語られますが、実はベンチャーファンドの運営においても同様に重要です。しかし、時にその重要性が過小評価されることがあります。企業運営ほど複雑ではないかもしれませんが、キャッシュフローは無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)の両方に大きな影響を与えます。
LPとしてベンチャーファンドに投資する場合、GPがスタートアップに直接投資する場合とは異なるキャッシュフローの仕組みが働きます。直接投資では、通常、投資を決めた金額を一括で支払います。たとえば、1億円を投資する場合、その全額をスタートアップに一度に送金します。
一方、ベンチャーファンドはキャピタルコールという段階的な投資プロセスを採用しています。LPは、GPが投資機会を見つけ出し、実際に投資を執行するタイミングに応じて、約束した投資額を数年かけて段階的に出資します。つまり、1億円を約束しても、一度に全額を支払うのではなく、必要に応じて少しずつ資金を投入する形になります。
収益の分配方法にも違いがあります。直接投資の場合、エグジット(Exit)後に収益が一括で分配されるケースが多いですが、ベンチャーファンドではポートフォリオ内の各スタートアップが買収(M&A)や新規株式公開(IPO)といった流動性イベントを達成するたびに、順次収益が分配されます。このように、キャピタルコールによる資金の流入と、収益分配による資金の流出がファンドの運営とパフォーマンスに大きく影響します。
出典:The Venture Capital Risk and Return Matrix by Industry Venturesをベースに著者が作成
GPにとってキャッシュフロー管理は、科学であり芸術でもあります。エグジットのタイミングや買収機会など、キャッシュフローに影響を与える多くの要因はコントロールが難しいですが、ファンド全体のキャッシュフローを適切に管理することは非常に重要です。
ファンドのパフォーマンスを測定する重要な指標である内部収益率(IRR)は、資金の流入と流出のタイミングに非常に敏感です。たとえば、必要以上に早くキャピタルコールを行うと、IRRが低下する可能性があります。一方で、投資直前まで資金の呼び出しを遅らせることで、IRRを最適化することができます。
キャピタルコール方式は、LPに意外な柔軟性を提供します。直接投資のように一度に大きな金額を支払う必要がないため、LPは資金を段階的に配分しながら、他の投資機会を同時に模索することができます。これにより、LPは財務計画の柔軟性を保ちながら、ベンチャーファンドへの投資を進めることが可能になります。
キャッシュフロー管理は戦略的な要素
このようなベンチャーファンドの特徴から、キャッシュフロー管理は単なるバックオフィス業務ではなく、戦略的な活動として位置付けられています。LPは様々な投資機会を最大限に活用しつつ、キャピタルコールに備えて十分な流動性を確保する必要があります。経験豊富な投資家であれば、この柔軟性を活かしてキャッシュフローの安定性を損なうことなくポートフォリオを多様化し、全体のリターンを向上させることができます。
GPもまた、キャピタルコールと分配を巧みに調整することで、ファンドのパフォーマンスを最大化できます。これは単にIRRを向上させるだけでなく、投資家としてLPとの信頼関係の構築する上でも重要です。
キャッシュフローは単なる運営上の課題ではなく、GPとLPの双方の成功を左右する戦略的な要素です。ベンチャーファンド特有のキャッシュフロー構造を理解し、それを効果的に管理することが、GPとLPにとって長期的な成功の鍵となるのです。
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