#92 Web3よりもホットな領域?

合成生物学は、様々な産業に大きなインパクトを与えようとしている
46(Youngrok) 2022.10.10
誰でも

今週末はサンフランシスコで毎年の恒例のエアショーがありました。 アクロバット飛行隊のBlue Angelsや最新鋭戦闘機のF35も見ることができましたが、本当にものすごい音と共に感じられるインパクトが印象深かったです。 一つ理解できないのはUnited Airlineの民航機もエアショーに出たそうですが(私は見ていません)、いつも乗ったり見たりする飛行機はなぜ出るのかはよくわかりません。とにかく、いつか戦闘機に乗ってみるのが夢なんですが(宇宙に行ってみるのも)、とりあえずはこう見るだけで満足しています!

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合成生物学(Synthetic Biology)と聞くと、ヘルスケア関連の技術だと連想するのは難しくないでしょう。実際、ヘルスケア業界との関連性は高いです。しかし、ヘルスケアは、この技術が破壊しうる多くの産業の一つに過ぎません。美容から鉱業まで、多くの産業が影響を受けようとしているのです。

合成生物学とは、「生物のシステム」をデザインしたりエンジニアリングし、既存のプロセスやプロダクトを改善する学問と言えます。合成生物学で最も有名な分野とも言えるCRISPR-Cas9のような科学技術は、ゲノムの設計やそのエンジニアリングを容易にし、コストを下げています(2020年この研究でJennifer Dodna氏がノーベル賞を受賞)。

まず、ヘルスケア領域の話ですが、合成生物学の技術により、臨床医たちは従来の方法よりもずっと早く治療法を開発することができるようになってきています。最もわかりやすい例は、COVID-19のmRNAワクチンです(ファイザーとモデルナのワクチン)。ワクチンの働き方を簡単に説明すると、臨床医がデザインし・合成したことで人工的に作られたmRNAというものが、体内で免疫反応を引き起こします。この免疫反応により、COVIDウイルスが実際に体内に侵入したときに、それを攻撃する抗体が作られるのです。今までは死んだウィルスや弱っているウィルスを体内に入れて免疫反応を起こしていましたが、この方法での新薬開発には時間がかかるのです。今回のmRNAワクチンの開発経験は、今の新薬の開発方法を大きくディスラプトしています。

また、最初に述べたように、合成生物学は他の産業にも影響を及ぼしています。植物から肉を作るImpossible FoodsやBeyond Meatのような企業がその良い例です。彼らは、彼らのラボで非食肉系のヘム分子を設計し、本物の肉のような味を実現しています。彼ら以外にも、多くのスタートアップが実験室育ちの本当の肉(食物をベースとする技術は異なる)の開発に取り組んでいます。

スーパーで売っているImpossible Foodsの肉

スーパーで売っているImpossible Foodsの肉

もう1つの例は、エルメスです。そう、あの高級ブランドのエルメスです。彼らは、新しいレザーバッグ製品のローンチを準備しておりますが、なんとそのレザーは、マッシュルームで合成して作られています。鉱業業界も合成生物学の恩恵を受けていて、例えば、毒性の強いアルカリシアン化水素よりも、微生物を使った浸出プロセスを試みているのです。

シルバニアと呼ばれるヴィーガンのレザーで作られるエルメスのバッグ

シルバニアと呼ばれるヴィーガンのレザーで作られるエルメスのバッグ

私の今回の簡単な調査だけでも、この技術がいかに魅力的で、大きな可能性を秘めているかがわかりました。今、多くのスマートな人々がこの分野に飛び込み、多くのスタートアップが生まれ、投資家が資本を注ぎ込んでいる理由がよく理解できたのです。

しかし、この技術や分野には目を光らせておく必要があるものの、これは私たちの社会を変える可能性のある、他の多くの興味深い分野の一つであることも認識することは重要です。今、誰もがWeb3について話していますが、この記事で話した通り、合成生物学も非常に面白い領域ですし、核融合という分野も急成長している領域の一つです。言うまでもなく、宇宙関連のスタートアップも急速に成長しており、2021年には合計で$9B(約1兆3千億円)のVC資金が宇宙関連のスタートアップに投資されました。規模感を伝えるためですが、Initial Japanによると、同年、日本のスタートアップ全体で8,500億円を調達しているそうです。

まだ多くの人が見落としているところ、でも未来を定義していくような分野を見つける訓練がいかに大事なのか改めて思いましたし、これからもそのマッスルを鍛えていきたいと思います。

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