#66 上昇した金利、ベンチャー投資の黄金期は終わり?

マクロ環境が変わっても、有望なスタートアップの誕生は止まらない
46(Youngrok) 2022.04.11
誰でも

先週水曜日、無事に日本につきました。日中はたくさん日を浴びて、毎日軽い運動も重ねて時差ボケも大分良くなったような気がします。日本はやっぱりご飯が安くて美味しいですね!着いた日に成田エキスプレスに乗って東京駅まで行ったので、ディナーは駅の商店街みたいなところで売っている800円くらいのお弁当を買ったのですが、その値段でこの味とクォリティはすごいなと感動しながらディナーを済ませたのです。昨日はCoCo壱カレーに行ったのですが、やっぱり美味しかったですね。CoCo壱のほうれん草・ソーセージ入り3辛は元々大好きで、実は先月ロスに行った時にも食べたのですが、ロスのCoCo壱の値段は2倍だったのです。ご飯ばかり食べているわけではないですが、滞在中の日本での食事はとても楽しみですね!

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先月、FOMC(連邦公開市場委員会)がFF金利(フェデラル・ファンド・レート、政策金利)を0.25%上げました。1年くらい前、FF金利が話題になり始めた時に書いた「上昇する金利、ベンチャー投資への影響は?」で、FF金利は必ずしもベンチャー業界が心配するようなものではないが、米国の10年国債(10-Year Treasury Bonds)には相関していることについて話しました。その10年債は米連邦準備制度理事会(FRB)の過去最大の量的緩和(QE, Quantitative Easing)のお陰で過去2年間低水準で推移していて、特にベンチャー投資活動の黄金期を招いた重要な理由の一つとなりました。

しかし、量的緩和によるインフレは大きな問題になり、FRBが国債購入を通じて行っていたQEプログラムの終了を発表している今、国債の利回りが上昇し始めています。FRBによる国債の買いが減ると、利回りが上がるからなんですが、これでそろそろベンチャー投資活動への影響が気になってくるタイミングになります。

機関投資家にとって、利回りが上がるということは、VCファンド以外の投資対象ができることを意味します。国債の利回りがゼロに近い時には投資してもしょうがないので、投資家はリターンが得られる他の資産クラスを探さなければならず、VCファンドに目を向けていたのです。しかし、最も安全な投資資産である米国債の利回りが上がると、機関投資家からすると、VCファンドに資金を投入するインセンティブが稀薄され、投資を控えがちになります。単に米国債に投資をすれば良いからです。下のグラフを見ると、実際、10年債の金利が下がるに連れて、VCファンドの資金調達額が上がってきていることがわかります。

米国10年国債とVCファンドの資金調達額(データソース:PitchBook&Macrotrends)
米国10年国債とVCファンドの資金調達額(データソース:PitchBook&Macrotrends)

バリュエーションが低下する可能性も高いです。金利が上昇すると、企業価値を計算する時に用いられる割引率(Discount Rate)が上がるので、結果、企業価値が押し下げられます。ここ最近たくさんニュースに出てきているように、多くの上場テック会社のバリュエーションが落ちているなど、価格調整がされている中、これはさらなるプレッシャーになるのです。スタートアップのバリュエーションでは、上場類似会社を参考にすることは少なくないので(Comparable Analysis)、上場企業の評価が下がれば、スタートアップもそれに影響を受ける可能性は高くなります。

また、金利が上昇すると、銀行からの借入による資金調達(Venture Debt)のハードルが上がるので、VCからの資金調達がより魅力的になる可能性もあります。VCに有利なマーケットになればなるほど、当然バリュエーションもその分下がるでしょう。

ここまで議論した通り、理論的に考えると、金利の上昇はベンチャー業界にネガティブな影響が多いようです。VCは資金調達が難しくなるし、スタートアップは高いバリュエーションがつきにくくなる。しかし、だからと言って、5年後・10年後に我々の生活に大きな影響を及ぼすスタートアップは現れないのでしょうか。また、もうこれ以上成功するVCは出てこないというなのでしょうか。

当然、そんなことはありません。今のテクノロジーの我々社会への影響は、過去最も高く、人工知能、遺伝子工学、デジタル・トランスフォメーションな、暗号資産などの技術の進歩は止まる気配が全くありません。それに伴いより多くの人材がスタートアップの世界に飛び込み、より多くのスタートアップが誕生しています。金利が上がろうが下がろうが、これからも素晴らしいスタートアップが誕生する、という事実は変わらないのです。先週とある機関投資家より、最近の金利の上昇とは関係なく、ベンチャーキャピタルの資産に興味を示している投資家は引き続きたくさんいるとも聞いています。今、シードステージのスタートアップの評価額がまだまだ盛り上がっているのは、そのためかもしれません。

機関投資家の中には、当然ベンチャーから資金を引き揚げるところもいるでしょう。しかし、DAOのような新しい仕組みやAllocateのような会社によって、ベンチャーキャピタルのアセットクラスに資本を注入する手段と投資家も増えてきています。また、ファミリーオフィスのベンチャー投資額も年々さらに増加してきています。

今回の金利の上昇により、ベンチャーキャピタル、より広義のプライベートエクイティのアセットクラス全体が危うくなるとは言うべきではありません。ベンチャー・キャピタルやプライベート・エクイティは巨大なセグメントであり、今後も負け組も勝ち組も現れます。しっかりと実績があり有望なVCファンドはこれからも問題なく資金を調達し続けられるし、ディスラプティブなスタートアップは問題なく資金を調達し、成長し続けることができるでしょう。ですので、マクロ環境の変化の議論に時間とエネルギを費やすよりは、どうすればこのような環境の中でも成功するVCファンド・有望なスタートアップを見つけられるのかを議論した方が良いかもしれません。

Reference:
・10 Year Treasury Rate - 54 Year Historical Chart - https://www.macrotrends.net/2016/10-year-treasury-bond-rate-yield-chart 
・U.S. Inflation Rate 1960-2022 - https://www.macrotrends.net/countries/USA/united-states/inflation-rate-cpi 
・Federal Funds Rate - 62 Year Historical Chart - https://www.macrotrends.net/2015/fed-funds-rate-historical-chart 
・Fed’s Biggest-Ever Bond-Buying Binge Is Drawing to a Close - https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-03-09/fed-s-biggest-ever-bond-buying-binge-is-drawing-to-a-close 
・Just stop! Investors want the Fed to quit buying bonds now - https://www.cnbc.com/2021/12/15/fed-will-aggressively-dial-back-its-monthly-bond-buying-sees-three-rate-hikes-next-year.html 
・Will rising interest rates scupper the startup surge? - https://techcrunch.com/2021/09/27/will-rising-interest-rates-scupper-the-startup-surge/ 
・As interest rates rise, will limited partners move on from venture capital? - https://fortune.com/2022/03/17/interest-rates-rise-limited-partners-venture-capital/ 
・Private Equity’s Inflation Challenge - https://www.bain.com/insights/inflation-global-private-equity-report-2022/ 
・The private equity industry in the new interest rate environment - https://voxeu.org/article/private-equity-industry-new-interest-rate-environment

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