#56 CVCシリーズ② CVC投資を通じてうまく情報を得る方法は?

CVCの投資意義を考える
46(Youngrok) 2022.01.31
誰でも

先週は10年ほど前にシリコンバレーでスタートアップを創業し、大きなイグジットをされた方のお宅にお邪魔致しました。今は素敵な家で余裕のある生活をされている方ですが、やはりスタートアップの創業や投資には夢があると改めて思いました。

さて、今回はCVCシリーズの第2弾です!前回は、企業がCVCを設置する理由の一つとしてよく挙げられるパートナーシップ(事業開発)に関して話しましたが(リンク)、今日はCVC投資をやるもう一つの理由である「情報収集」について、どうすればうまくできるのかに関して話してみたいと思います。

企業がCVC投資を行う一つの理由は、スタートアップから情報を取得し、市場で何が起こっているのか、どのようなスタートアップが立ち上がっているのか、どのような新しいサービスが生まれてきているのかなどをいち早く知ることです。これらの情報は自分たちの新しいビジネスのアイデアに繋がったり、あるいは、既存のビジネスに対する脅威の早期発見にも繋がります。

一見聞くとかなり単純なことに聞こえます。CVCはただ単にスタートアップに投資をし、その出資先スタートアップから話を聞いて、それを親会社に伝えるだけでだからです。しかし、当然ながらそんなに簡単な話ではないのです。色々と考慮しないといけない点がありますので、それらについて(1)CVC現場と(2)CVCの親会社の二つの観点から話をしたいと思います。まずは、実際にスタートアップに出資を行う、CVC現場の観点から話したいと思います。

(1)CVC現場まず、当然ですが投資先スタートアップが多ければ、より多くの情報が得られます。例えば、FinTech領域における情報取得を目的にしているCVCがいたとした場合、例えば年間1社のみに投資するだけではFinTech分野の全体像は見えません。アルファベットのCVCアームであるGVのように年間100社とは言いませんが、ある程度の量は必要なのです(Pitch BookのデータによるとGVは2019年56社、2020年に69社、2021年には110社に投資をしている)。

ある程度の数のスタートアップに投資をするためには、ディールのパイプラインが大きくなければなりません。例えば、VCが全案件の5%しか投資せず、3年間で30社(VCファンドのよくあるターゲット投資案件数)に投資するとすると、ソーシングしないといけないスタートアップの数は600社に登ります。つまり1年に200社をソーシングし、評価しなければならないのです。

さて、ここで重要なのは、CVCの親会社に役立つ情報は、投資先スタートアップからのものだけではないということです。投資先からの情報はもちろん貴重ですが、その他の色々なスタートアップとの会話自体が重要なインサイトや情報になります。上で話した通り、一定数以上のスタートアップに出資をするためには、多くのスタートアップをソーシング・評価しないといけないのですが、そのプロセス自体が非常で、CVC投資担当者としては、一般的なVCと同様に積極的にスタートアップをソーシングし、彼らと話をし、関係性を作っていくのが重要です。この観点からCVC担当者の評価基準として、ソーシングの数を入れるのは良いと思います。

ただ、ここでCVCメンバーが留意すべき最も重要なことは、投資と引き換えに情報を得ることではないということです。最近のベンチャー投資市場でお金はコモディティになってきています。「投資」はあくまでも投資家であるCVCに対して「投資リターン」を与えるだけで、投資をしたから簡単に情報が得られると考えていはいけません。投資を通じてそのスタートアップとのコミュニケーションチャンネルはできるので、スタートアップにもちゃんと「Give」ができる両方向のコミュニケーションを取ることがとても重要です。CVC側からもスタートアップに役立つ業界の情報などを提供するのは良いスタートになるでしょう。CVCがスタートアップから情報を得たいのであれば、自分たちもスタートアップに与えられる情報を持っていなければならないのです。

(2)CVCの親会社じゃ今はうまくCVCが活動してくれていて、色々な情報やインサイトが溜まってきているとしましょう。そうすると次考えないといけないのは、CVCの親会社の観点からです。どういう情報を誰とどう共有するのか、に関してです。

CVCが情報を共有できるのは、2つのレイヤーがあります。まずは事業現場の人々です。CVCは、プロダクトマネージャーなどその情報から役立つことができる事業の責任者と、直接スタートアップの詳細情報やインサイトを共有することができます。しかし、これには2つの課題があります。

まずは、スタートアップからの情報にはセンシティブな情報も含まれていて、自由に企業内で流通させてしまうと問題が起きる場合があります。特に会社が大きくなればなるほど、情報のコントロールが難しくなるのです。社内のプロダクトマネージャーと共有したあるスタートアップの情報がそのままコピーされて、全く同じサービスがCVCの親会社で立ち上げられた事例も見たことがあります。こういうことはCVCとしては絶対避けないといけません。

また、情報のコントロールがうまくできているとしても、会社が大きいと様々な事業があり、また会社の組織変更や人事移動も頻繁にあったりするので、CVCからの情報を誰とどのような場で共有するのかを設計するのは非常に難しいのです。

もう一つのレイヤーは、CEOや役員クラスですが、私のおすすめはこちらです。CEOや役員とのダイレクト且つ定期的なコミュニケーション・チャンネルを持つことで、CVCは情報を共有する人たちをその都度を見つけなくてもよく、より簡単に情報をコントロールすることができます。CVCの活動はその親会社の中長期的な戦略に最も役立ちます。そのような戦略を常に考える方々と業界のトレンドなどのハイレベルな情報を共有するのはとても自然だと思います。

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スタートアップ投資による情報収集は、簡単なことではありません。一般的なVCのような積極的なソーシング活動を通じてある程度の数の投資をしないといけませんし、同時に親会社はCVCによって得られた情報を共有するための適切な人とのコミュニケーションチャンネルや方法を作らないといけません。このように慎重にCVCを設計しなければ、結局得られる情報はTechCrunchのニュースを読む以上の情報を得ることはあまり期待できないことになります。

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