#174 VCファンドにも存在するベスティング
先週はアイ・ピース/Rejuというスタートアップがコーセーと個人の細胞でつくったiPS細胞を使う美容商品事業を始めるという記者会見がありました。このアイ・ピースで美容事業を展開する関連会社のRejuの社長を務めているのが妻で、今回こういう形で良い節目を作れて本当に良かったなと思っています。私も妻も同じスタートアップエコシステムの構成員ではありますが、当然ながら役割やメンタリティーが全く違うので間接的ながらいつも良い勉強をさせてもらっています。これからもうまく行ってほしいですね!日経記事:コーセー、iPS細胞から美容液 診断付きで年100万円
今回の発表はニュース番組でも取り扱われました
スタートアップのストックオプションのベスティングは聞いたことがある方も多いと思いますが、実はベンチャーキャピタルのファンドにもベスティングが存在します。ファンドにおけるベスティングとは、ファンドのGPが、時間の経過とともにファンドの成功報酬に対する持分を段階的に獲得するルールを指します。極端な例として、投資1年目に大きな成功報酬が出たとしても、ベスティングが10%されない場合、GPが受け取ることができる総収益の10%しか受け取れないということになります。これは、一般的に10~13年程度かかるファンドのライフサイクルの間、GPがファンドの成功に継続的にコミットするインセンティブを提供します。
米国の大手法律事務所の一つであるMorgan Lewisによると、ほとんどの場合、ベストイングスケジュールはファンドの投資期間とある程度連動しているといいます。つまり、投資期間が5年であれば、最初の5年間で殆どである80%がベストされます。 しかし、ベスト期間とベストのペースはファンドそれぞれ異なります。これは、ファンドから価値が生まれるタイミングと、それに必要なGPの労力を反映して設計する必要があります。
GPが一人であるソロGPファンドの場合、ソーシング、デューデリジェンス、交渉、ポートフォリオへの価値提供の全てを一人でやらないといけないため、ベスティングの重要性がより大きくなります。上記の極端な例に戻りますが、1年目にベストイングがないまま大きな成功報酬があり、1年目に大きな収益を上げた場合、ソロGPはハングリー精神を持ち続けるモチベーションを失う可能性があります。そうなるとファンドの管理すら危うくなるリスクが生じます。しかし、2人以上であれば、最悪1人のGPが辞めても、残りの1人にファンドの管理を任せることができます。
また、ベスティングは、ソロGPファンドの有事の際の維持メカニズムを提供します。例えば、ソロGPファンドのGPが途中でファンドから離脱しても、ベスティングでGPに与えることができる成功報酬が残っていれば、ファンドの管理のために新たに採用するGPにその残額を割り当てることができます。また上の例に戻りますが、例えば6年目でGPがいなくなった場合、まだ20%はベストされてないので、GPの成功報酬の20%を新たに入ってくるGPに割り当てることができます。
2022年頃までは、ベンチャー市場が非常に活況であったため、GPがGPとLPのパワーバランスで優位に立っていました。そのため、LPのための取り決めであるベストイングも多くのファンドが実施していなかったと思います。しかし、ここ数年、パワーバランスが再調整されているし、またソロGPファンドの役割も重要になってきているので、GPに対するベストイングが再び頻繁に登場するようになると思います。 逆に、GPが積極的にベストイングを適用するのであれば、LPの立場からすれば、そのGPの評価においてポジティブなシグナルとして捉えることができると思います。
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