#89 VCの選び方:優良VCファンド≠大型ファンド

VCファンドのサイズは重要な投資戦略の一つ
46(Youngrok) 2022.09.19
誰でも

最近、米国も不動産市場が縮んでいくという展望が出てきている中、サンフランシスコでどんな家が売り物に出ているのか気になって近くの物件を見に行ってきました。 その中でどうせ見るのはタダだしだと思って$4.5M(今のレートだと6.4億円!)の高い家も見に行ったのですが、良いなーというよりはここには住みたくないなーという印象強かったのです。 ここに入る服がないのに、と思うほどでかいウォークインクローゼットがいくつもあったり、掃除はどうしようと思うほど部屋も多くて、どう使えばいいのか分からないお客さん用の応接室など… 今日ファンドのサイズについて話をしてみましたが、やはり何でもむやみに大きいよりは自分に合うサイズが重要だという気がします!

$4.5Mのお家の内部(写真の出所:Redfin)

$4.5Mのお家の内部(写真の出所:Redfin)

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VCファンドに投資することを業としている人として、私は日々多くのVCに出会う機会がありますが、「今後数百億円を調達したい」という話を聞くことは少なくありません。しかし、具体的な理由や計画なしでむやみにファンドサイズを増やすことはとても危ないです。そもそも筋の通った現実性のある理由や計画があってもファンドサイズを増やすことは難しいくらいなので、単に大きなファンドを作りたいという話をする方々に会うと悲しい気持ちになります。

周りのファンドが数百億円のファンドを作るからと言って、単に「あそこがそうやるんだったら、じゃ私たちも」という自分のエゴでファンドサイズを決めてはいけません。ファンドサイズを正しく設計することは、VCの投資戦略を考える上でとても重要なのです。

例えば、二人のパートナーがいるシードステージに特化したVCファンドがあって、100億円のファンドを組成したいと仮定しましょう。最近アメリカでは投資期間が短くなってきて今後2年間で資金を消化する予定です。管理費用などを除いて話を極力シンプルにすると、これは単純に一人のパートナーあたり毎年25億円を投資しないといけないことを意味します。一件あたり1億円の投資をするのであれば年間で25件、毎月約2社に投資をしないといけません。

ここまで聞くと、二人が毎月2件、一件あたり1億円を出資、2年で100社に投資する、というファンドなんだと思うかもしれませんが、これは非常に現実性がない戦略なのです。

まず、月に2件投資するというのは本当に大変なことです。1件の投資をするためには多くは50社以上にスタートアップを見つける必要があります。なので、月2件投資をしたいのであれば、月に100社くらいを見つけないといけず、ご想像の通り、これは決して簡単なことではありません。

さらに、2人のパートナーで100社の投資先を管理することも本当に大変です。投資先に毎月1回30分だけ話をするとすると、月に投資先管理のミーティングだけで25時間かかるという計算になります。しかも、上で話した通り、月に新たなスタートアップも100社を探さなければならなりません。

このままだと、パートナーたちは良くない投資先に急いで投資をすることになったり、それとも全然投資ができなくなったりしてして、ファンドのパフォーマンスも伸びず、投資先企業のサポートもできず、VCとしての最悪の負のスパイラルに落ちいてしまう可能性が高くなってしまいます。

周りにどんどんと大型ファンドが出来上がったりすると、大きなVC=良いVCという風に考えてしまうこともあるでしょう。しかし、サイズに合う経験と能力がないまま、サイズアップだけしていくと当然うまくいきません。

もちろん上の例は極端な例で、フォローオン投資をするとか、アソシエートを採用するとかで比較的簡単に改善できるところもあります。しかし、経験が浅いパートナーたちに対しては私はいつも投資戦略を立てやすく、管理しやすい小規模なファンドを推奨します。

上記の例で、もし100億ではなくて50億のファンドであれば、月1件、1億円の投資、ポートフォリオの数は50という、急に現実的な水準になります。100億円のファンドで2倍のリターンを出す場合と50億円のファンドで3倍のリターンを出す場合で、パートナーへの成功報酬(キャリー額)は一緒です(100*0.2 vs 50*2*0.2)。ただ、大きな違いは2倍のリターンしか出せなかったVCには次誰も投資しないということです。

ファンドの規模は、パートナー自信のエゴではなく、パートナーたちの能力や経験、強みに基づいて決定されるべきです。現実的なサイズで十分に実績を作っていけば、資本は後からついてきます。ファンドのサイズアップはその時考えても遅くないのです。

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