#74 今は投資を止める時ではなく、投資スピードを戻す時

今は以前の投資スピードに戻すタイミング
46(Youngrok) 2022.06.06
誰でも

先週末は妻が2年間通っていたバークレー大学のMBA課程を無事に卒業しました。しかも上位10%の成績優秀者に与えられる「Honor」も勝ち取れたのです。私も5年前MBAを卒業していますが、どの学校も日本人学生の数は決して多くありません。妻も彼女のプログラムでは唯一の日本人でした。インドや中国、韓国、メキシコなどの国が多い印象ですが、経済規模や人口を考えると、日本からもう少し学生がいてもおかしくないのではないかとも思います。MBAのみならず、また、米国のみならず、より多くの日本人の方々が海外で勉強し活動していくことは、段々とガラパゴス化してきて日本を変えられる一つの切り口になると思います。

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最近は暗い経済ニュースが多いです。テック企業のバリュエーションが大打撃を受けている話から、新規採用を停止するだけでなく、従業員をレイオフしていると言うような話が相次いでいます。投資家側も大変な時期を経験しています。あの著名なクロス・オーバー投資家であるタイガー・グローバルは持分の価値が50%以上落ち込んだと言われています。

ほとんどのベンチャーキャピタルファンドはクローズドエンドという構造になっています。これはどういうことかというと、すべてのベンチャーキャピタルファンドには、ファンドを清算すべき「終わり」があり、それは通常10年です。つまり、VCがファンドを立ち上げると、ファンドは10年間存在したあと、解散しなければなりません(厳密にはさらに数年続きますが、ここで詳細は省略します)。ファンドは解散時に残りの全てのスタートアップの保有持分を清算します。

ここで、この10年間を2つの区間に分けることができます。一つは「投資期間」、もう一つは「収穫期間」である。「投資期間」は最初の数年間であり、VCがスタートアップを見つけ、投資を実行する期間です。残りの「収穫期間」は、VCがスタートアップを成長させたり、投資リターンを得るためのエグジットの支援などを行う期間になります。

2022年初頭に顕在化してきた不況までは、多くのVCの中で投資期間が短くなりつつありました。通常、投資期間は3~4年でしたが、ここ数年は1~2年と段々と短くなってきていたのです。彼らは迅速に資金を調達し、短期間で投資を行っていました。

しかし、今の経済状況を加味すると、そのような戦略を見直し、投資のペースを元に戻す時期かもしれません。過去のデータを見ると、市場が良いときには、VCが早く投資をするだろうが、遅く投資をするだろうが、あまり関係ありません。しかし、市場が良くない時には、ペースを少し落とした方が、より良いリターンに繋がる傾向があるのです。

次のチャートは、世界的な金融危機の最中である2008年に立ち上がった2つのファンドを表していて、Y軸は各年度に投資した案件の割合を示しています。ファンドA(青)はより長い期間に渡って投資を行っており、もう一方のファンドB(赤)は、より短い期間で投資を行っています。さて、予想して頂けたかと思いますが、投資ペースが遅かったファンドAの方がファンドBより高いリターンを得ていたのです。

2008年立ち上がった二つの異なるファンドの各年度に投資した案件の割合(データソース:PitchBook)

すべてのVCファンドが投資ペースを落とすべきだと言っているわけではありません。例外もたくさんあって、2008年の金融危機の際にも、迅速に投資を行いながら、良いリターンを上げたファンドもあります。しかし、少なくとも一部のファンドにとっては、このチャレンジングな経済状況をうまく切り抜け、投資リターンを上げるためには、2021年の投資ペースから少しスピードを落とし、元々のペースに戻した方が良い場合も出てくると思います。

前回の記事「#71 ベンチャーファンド投資の最も良いタイミングは?」で述べたように、今はVCやLP(VCに投資する投資家)にとって、投資をやめるタイミングではなく、むしろ投資を継続する時期です。その中で、ペースをコントロールしながら投資を行うことで、長期的には同業他社より優れたリターンを出しやすくなり、ファンドの成功にもつながると思います。

References:
・Legendary hedge fund Tiger Global is now reportedly down by more than 50% after a brutal year for tech investors - https://finance.yahoo.com/news/legendary-hedge-fund-tiger-global-185226596.html

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