#64 テック企業の株価低迷、より激化する人材競争

激化する人材競争はテック企業のグローバル化を後押しするかもしれない
46(Youngrok) 2022.03.28
誰でも

サンフランシスコのダウンタウンは2020年3月コロナになって以来ずっとゴーストタウン化していました。ダウンタウンは主にオフィス街なんですが、当然誰もオフィスに行ってなかったので人通りが急激に減っていたのです。犯罪も増えてました。そういう状況が今年の頭までは続いてたのですが、最近ついに人が増え始めました!室内でのマスク義務もなくなるほどコロナもついに終わりかけているし、色々なテック企業のオフィスが復活し始めたのが原因だと思います。このままだと夏ごろにはかなり前みたいに戻るんじゃないかと。ただし、ついでにサンフランシスコの悪名高い渋滞も復活しました。市内は自転車かキックボードですね…!

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テック企業を含むすべての企業にとって優秀な人材を採用することは常に最も重要かつ難しいことです。しかし、採用以上に重要なことは、せっかく多大な採用コストをかけて採用した社員をいかにリテンションさせるかです(辞めさせないこと)。豪華なオフィススペース、無料ランチやドリンク、さらにはクリーニングサービスなどまでを提供することは、従業員の定着率を高めるための施策の一つです。

こうした多くの手当ての中でも、従業員を引き留めるために最も効果的なものの一つは当然魅力的な報酬です。このために、グーグル、メター(旧フェースブック)、ツイッターなどの殆どのテック企業は、ボーナスと給料に加えて、ストックオプション(またはRSU、Restricted Stock Unitの略で自社株を何年かに分けて支給する制度)も提供するのが一般的です。

例えば、テック企業の報酬情報を提供するLevels.fyiによると、ツイッターの米国でのジュニア・ソフトウェア・エンジニアの年間報酬は$192k(約2,500万円)で、そのうち約430万円くらいがRSU相当します。このRSUの比率はシニアになればなるほど高くなるのですが、同社のシニア・ソフトウェア・エンジニアの場合、年間の報酬額が$729k(約9,000万円)で、そのうち約6,000万円分がRSU、すなわち自社株に相当します。

報酬そのものが非常に高いということに加え、シニアになればなるほど現金報酬よりも自社株による報酬の方が多く、会社の業績が上がるにつれて、全体の報酬額がさらに高くなる仕組みになっているのです。

この仕組みは今後会社が大きく成長する見込みがあり、株価も上がるという期待が高い場合は、トップ人材の採用し、リテンションさせるにあたって非常に有効に働きます。しかし、最近のように株価が下がって来ると、その効果は著しく弱くなってしまいます。

ツイッターを例にとってみましょう。上図で表している通り、2022年2月時点のツイッターの株価は、直近の最高値から57.5%も下落しています。つまり、株価がピークの時に入社した社員は、自分の報酬の多くが飛んでしまったということになります。先ほどのツイッターのシニア・ソフトウェア・エンジニアの場合、約6,000万円分相当が自社株で支払われる予定だったので、それの57.5%に相当する3,450万円分が無くなったということになるのです!当然これはかなりネガティブなことであり、その社員からすると会社に残るインセンティブが急激に薄れてしまいます。

社員のモチベーションを維持するために、ロビンフット(Robinhood)、スナップ(Snap)、ペイパル(PayPal)、ウーバー(Uber)を含む多くのテック企業は、以前の報酬に見合うだけの株や現金を支給しています。

より興味深いのは、直近の資金調達ラウンドで$39B(約4.8兆円)のバリュエーションがついた食料品の即日配達サービスを展開するテック企業であるインスタカート(Instacart)のケースです。同社は先週、従業員に支給する自社株の価格を決める際に使われるバリュエーションを38%低く設定しました。言い換えると、一種のバリュエーションを意図的に38%も下げたのです(ただ、会社の企業価値自体は変えてない)。従業員にとってバリュエーションが低いということは、より多く数の自社株をもらうということになるので、優秀な人材を本当に逃したくないんだ、といういう同社の意図が読み取れる動きなのです。

最近のテック企業の株価低迷を受け、多くのレイター・ステージの投資家が投資活動を鈍化させてきています。タイガー・グローバル(Tiger Global)もその一例です。このままマーケット全体の投資活動が伸びなければ、ミッド・レイター・ステージのスタートアップ企業も優秀な人材の獲得・リテンションが段々と難しくなり、インスタカートのようにバリュエーションを下げることを余儀なくされるかもしれません。特にインスタカートのようにここ数年の間に非常に大きなバリュエーションがついたテック企業であればあるこそそのリスクが高くなるでしょう。

このような株価低迷による激化する人材競争の副次的な効果として、リモートワークにしろ、海外オフィスの展開にしろ、米国外での採用が加速化するするかもしれません。「ウクライナ、ヨーロッパで10番目にテック人材が多い国(東欧では2番目)」でも紹介しました通り、ウクライナなどの国での採用コストは米国に比べて非常に低く、戦争が起きる前は多くのテック企業が拠点を作っていました。また、特にテック企業としては、リモートワークは今やオプションではなく、必須になりつつあります。

ツイッターは従業員に対して100%リモートでも大丈夫と発表しています。週5会社に行っても良いし、家で働いても良いのです。また、メタ社が去年発表したEU圏で1万人を雇用する計画も、もしかしたらこのようなことを見据えた判断だったのかもしれません。

References:

・Meta employees look to ditch jobs amid stock crash: ‘Feeling like s–t’ - https://nypost.com/2022/03/20/meta-employees-look-to-ditch-jobs-amid-stock-crash/
・Tech companies fight low morale and attrition with more equity grants as their stocks get slammed - https://www.cnbc.com/2022/03/18/tech-companies-fight-attrition-with-more-equity-grants-as-stocks-drop-.html
・Instacart delivers a lower valuation - https://www.axios.com/instacart-delivers-lower-valuation-061f9218-8629-477a-96c3-e553a7fec2f2.html
・Instacart Cuts Its Valuation by 38 Percent, Citing ‘Turbulence’ - https://www.nytimes.com/2022/03/25/business/instacart-valuation.html
・Tech investors are suffering the second stocks rout of the COVID pandemic—and Wall Street thinks it could get far worse - https://fortune.com/2022/02/21/second-tech-stocks-rout-covid-pandemic-meta-fb-pypl-nflx-faang
・Facebook to hire 10,000 in EU to work on metaverse - https://www.bbc.com/news/world-europe-58949867

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