#141 VC市場の成長には投資家(LP)の成長が不可欠

より成熟したVC市場に必要なもの
46(Youngrok) 2023.09.18
誰でも

先週末は友人夫妻とキャンプに行ってきました。前はよく行っていたのですが、去年子供が生まれたので2年ぶりのキャンプになります。電波もないところで、久しぶりに楽しい時間が過ごせました。友人夫妻は今回タイムシェアの電気自動車でキャンプ場に行ったのですが、アプリを通じてドアを開ける仕組みです。ただ、急にドアが開かなくなってしまって、電波もないのでサポートセンターに電話もできず、しかも車のバッテリが放電したかもしれないという心配も出てきたというハプニングもありました。結局2時間くらいのトラブルシューティングで、なんとか無事に帰ってきましたのですが、こういうのを経験するとやはりEVはまだ怖いなという気がしますね!

まだ車のドアが空いていた時の楽しい晩餐

まだ車のドアが空いていた時の楽しい晩餐

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先週、我々GREE LP Fund USのポートフォリオVCファンドの中で、最も有名なVCの一つがプライベートディナーをホストしました。大型ファミリーオフィス運用会社から数兆円規模の資産を持つ大型セカンダリーファンドまで、選別された投資家(LP)だけが参加した小規模なプライベートディナーでした。最新のAI技術からマクロ市場の動向まで様々な話をすることができたのですが、 その中にはVCファンドのパフォーマンスに関する議論もありました。

以前、"#135 VC投資リターンの冷たい事実"という記事でもVCの運用実績に使われるいくつかの重要な指標については説明をしたことがありますが、とにかくVCの運用実績にとってDPIというものは最も重要な指標になります。これは、VCファンドに投資をした投資家(LP)に実質的に分配された金額の倍数です。例えば、LPが100ドルを投資し、DPIが3倍であれば、LPは300ドルを取り戻したことになります。この指標は、追加議論の余地のない非常にシンプルで最も重要な指標です。

しかし、VC業界で倍率を話すときには、TVPIまたはMOICの方がより一般的に使われます。この指標には、実現価値(DPI)だけでなく、未実現価値も含まれていて、状況によって多くのニュアンスを含みます。簡単に言えば、あるファンドが1株あたり100ドルのバリュエーションで10社に投資したとします。 5年後に10社の価値がすべて一株あたり300ドルになった場合、このファンドのMOICは3倍になります(TVPIはこれより低くなります)。

しかし、ここで重要な質問は、これらのスタートアップが実際に1株当たり300ドルの価値を持っているかどうかをどうやって確認するのかというところです。 これらのスタートアップは公開株式市場で取引されていないため、財務情報を確認することができません。つまり、公正市場価値(Fair Market Value)を知ることは難しいです。特に最近では、スタートアップがまだ非上場であるときにVCやスタートアップが策定したバリュエーションと、実際のIPO後の公開市場でのバリュエーションの間に大きな差が出ることが頻出しています。つまり、上記の例に戻ると、1株当たり300ドルは検証されていない価値なのです。

VCが正しいバリュエーションポリシーを持っているかどうかを確認するのは、そのVCに投資するLP(Limited Partners)の責任です。10個のスタートアップの価値が本当に1株当たり300ドルであることに同意できるかどうかを確認する必要があるのです。そのためにLPができる最低限のことは、会計事務所が出す監査報告書を見ることです。もちろん、この数字も完璧ではありませんが、少なくとも他の第三者が監査している数字なので、当然見ないよりはマシです。

ここで問題は、すべてのLPがこのようなことを知ることができるほど経験が豊富ではないということです。投資先のスタートアップや共同投資家など、VCの周りに電話をしてそのVCについてより詳しく聞くリファレンスコール(reference call)は、潜在LPができることで、かつしなければならない最低限のことです。私は投資をする前に何度もリファレンスコールをします。しかし、すべての潜在LPがそうするわけではありません。ディナーの際に私の真向かいに座っていたLPとして30年以上の経歴を持つある方は、すべてのLPがVCに対する十分なレベルの評価を行わず、結局、お金を受け取るべきではないVCファンドにもお金を与えていると嘆いていました。 当然、私はこのようなことが、米国より成熟していないVC市場を持つ日本ではさらに多く起きていると思います。

VCの顧客は二人います。一人はスタートアップで、もう一人はLPです。VC業界が成熟するためには、VCが投資をするスタートアップ自体もレベルアップしなければなりませんが、VCにお金を与えるLPもレベルアップしなければなりません。 重要な質問を投げかけることができなければならず、当たり前にやらないといけない評価をしなければなりません。LPが十分な素養を持たないままお金を投資し続ければ、VCの質は向上しません。本当に実力のあるVCではなく、そこら辺の実力のないVCにお金が行くことになるからです。今後、日本でも高いクオリティーなLPがもっと多く現れることを期待していますし、我々GREE LP Fundも引き続き何かしらの形で貢献していきたいと思っています。それによって結果的にVC市場がさらに成熟する日を楽しみにしています。

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