#256 米国VC投資で最も重要なのは、まず「人材」への投資

高い報酬が払えるマインドセットが必要
46(Youngrok) 2025.12.08
誰でも

サンフランシスコ・ベイ・エリアは、場所ごとに天気が劇的に変わる「マイクロ・クライメイト(microclimate)」で有名です。中でも濃い霧は、この地域ならではの名物ともいえる存在です。冷たい海水の上に暖かい空気が流れ込むことで霧が発生し、一度できた霧は、上空の暖かい空気が“ふた”のように覆うため、なかなか抜けていかないのだそうです。

先日、ロスに向かう飛行機から下を見下ろしたとき、その様子がまさに目に見える形で広がっていました。サンマテオ周辺の人工湖のあたりに、霧が雲のように溜まり、そこだけぽっかりと閉じ込められているのがはっきりと見え、この独特の景色に思わず感嘆してしまいました。

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シリコンバレーで優秀なベンチャーキャピタル人材を採用するには、相当なコストがかかります。大手ファンドのGPクラスになると、基本給だけで1億円を超えることも珍しくなく、その下でも年収3,000万〜4,000万円は出さなければ話が始まりません。もちろん低い金額ではありませんが、シリコンバレーの生活費を考えると“十分に余裕のある暮らし”とは言いづらい水準です。4人家族が大きな貯蓄はできなくても、最低限のゆとりを感じながら生活するには、世帯年収で最低でも4,000~4,500万円以上は必要になります。

近年、日本企業の中にはシリコンバレーでの投資を強化しようとするところが増えているように感じます。しかし本社から人材を派遣するにせよ、現地で採用するにせよ、このレベルの人件費を負担しなければならないという点は変わりません。本社の社員よりはるかに高い給与を支給する必要があり、特に「同じ会社の日本人にこんなに払うのか?」という感情的な抵抗はどうしても大きくなりえます。

とはいえ、現地人材を採用するのが簡単というわけでもありません。優秀な人材をどう説得して迎え入れるのか、その人が本社とどう連携するのか、文化的なギャップをどう埋めるのかなど、乗り越えるべきハードルは少なくありません。ラッキーにも良い人材を採用できたとしても、優秀な人ほど選択肢が広いため、「なぜ日本企業で働くべきなのか」という問いに明確に答える必要があります。サムスンのようにグローバルブランド力があればまだ有利ですが、日本では有名でも米国ではほとんど知られていない会社の場合、このハードルはさらに高くなります。そのため、韓国の会社の中には、韓国文化を理解しつつ現地ネットワークにも強いコリアンアメリカン人材を好むところもあります。

米国でのVC投資が魅力的であることに異論はほとんどありません。しかし、ベンチャー投資は属人性が非常に強いビジネスであり、結局のところ「誰がその仕事をするか」が成果を左右します。適切な人材を適材適所に配置することこそが、米国投資戦略の重要なポイントであり、成否を決めるポイントです。

私が社会人として初めて勤めた会社のゴールドマン・サックス証券の東京オフィスで聞いた言葉が今も印象に残っています。ゴールドマン・サックスが日本で成功できた理由を尋ねたところ、あるシニアパートナーはこう答えました:「ゴールドマンは、優秀な人材に能力相応の報酬を支払える会社だから」

一方、日本企業の多くは古い人事制度の影響で、実際の能力に関係なく職級によって報酬が決まるケースが少なくありません。これでは優秀な人材を長く引き留めることはできません。サムスンのような企業はグローバルスタンダードに合わせた報酬体系を導入し、海外企業と比較しても遜色ない給与を提供していると聞きます。こうした点が、彼らがグローバル市場で戦える理由の一つだと私は考えています。

結局重要なのは、マインドセットの転換です。「本社の役員より高い給与なんてあり得ない」。こうした考え方のままでは、シリコンバレーで優秀な人材を確保することは難しいです。優れた人材にはその実力に見合った報酬を支払い、同時に成果が出なければ思い切って交代させる運営能力も必要です。実際、ゴールドマンでもパフォーマンスの低い人材は継続的に退職を強いれられてました。無情に見えるかもしれませんが、グローバル市場ではごく当然のことです。

米国のベンチャー投資には確かなチャンスがあります。今後、より多くの日系企業や投資家がこのハードルを乗り越え、米国市場で成功を収めることを期待しています。

References:

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