#253 ファンド資金調達の目標金額達成には、どれくらいの「関心」が必要なのか

実際に興味があるという金額は5倍を目指すべき
46(Youngrok) 2025.11.17
誰でも

先週は、妻が出張に出ていたので、ワンオペでした。普段から、子どもたちが起きる前の早朝と、幼稚園に行っているあいだに仕事をしているので、仕事の時間そのものはあまり減りません。子どもたちをお風呂に入れたり、一緒に遊んだりすることも、楽しいし、すごく大変とはあまり感じませんでした。

ただ…問題は料理です。私は本当に料理が苦手だし特に好きというわけでもないので、子どもたちのご飯を用意するのが一番の難関でした。自分ひとりなら適当に食べて済ませればいいのですが、子どもにはそういうわけにはいきません。妻がほとんどのおかずを作り置きしていってくれたにもかかわらず、「今日はお弁当に何を詰めよう?」「夕ご飯は何を作ればいいんだろう?」と考えるのは、全く簡単ではないタスクだと痛感しました。世のすべてのワンオペの親たちに、今日もお疲れ様でした!と伝えたいです。

頑張って作った長女の弁当…w

頑張って作った長女の弁当…w

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先日、業界で最も尊敬されているベンチャー・ファンド・オブ・ファンズの一つの共同創業者とコーヒーをご一緒する機会がありました。30年間にわたって運用されているファンド・オブ・ファンズで、個人的にも市場で指折りのプレイヤーだと考えています。

そこで、私が最初に投げかけた質問はこうでした。「この“帝国”をどうやって築いてこられたのですか?」

返ってきた答えは、少し意外なものでした。「ファンドレイジングはいつだって大変ですよ。30年やっていても、いまだに楽にはなりません。」

このファンドは、1ファンドあたりの規模がおよそ10億ドル($1B)で、多くの直接VCファンドが羨むようなトラックレコードを持っています。このレベルであれば、「お金集めくらいは楽でしょう」と考えても不思議ではありません。

しかし、彼が教えてくれた “ルール・オブ・サム(rule of thumb)” はこうでした。「’興味がある’と言ってくれるお金が5億ドルあっても、実際に入ってくるのは1億ドルくらいだと見ておいた方がいいです。私たちのように10億ドルのファンドをつくるなら、少なくとも50億ドル分のソフトサークルが必要なんです。」

つまり、実際に1倍の金額を集めるには、その5倍の「関心」が必要だという話です。

ソフトサークル(soft-circled capital)とは、LPたちが「興味がある」「検討中だ」「社内で議論してみる」といった形で興味を示す金額の総額です。しかし、その数字がそのまま銀行口座に入金されることは、ほとんどありません。市場環境の変化、組織内部の事情、意思決定の遅れなどが重なり、当初の「関心金額」は少しずつ削られていきます。

ファンド・オブ・ファンズには、ここにもう一つハードルがあります。多くの人がいまだにこう考えています。「フィーを二重に払うことになるんでしょう? それなら損じゃないですか?」

しかし、以前の記事でも何度か書いたように、ファンド・オブ・ファンズは、一般的なVCファンドよりもメディアンTVPIが高いケースが多くあります。リスクを考えると、非常に魅力的な商品なのです。にもかかわらず、「フィーを二度払う」という一点だけを見て、ファンド・オブ・ファンズはよくない、という結論を急いでしまう投資家は少なくありません。

問題は数字だけではありません。ナラティブ(narrative)の問題でもあります。「ファンド・オブ・ファンズ」という言葉は、「AIファンド」や「クライメート・ムーンショット」のような名前に比べると、どうしても地味に聞こえます。しかし、ファンド・オブ・ファンズは、そうした華やかな名前のファンド群の中から、本当に可能性の高いところを選んで投資していきます。その過程で、本来なら価値の源泉であるはずのマネジャー・セレクション、ポートフォリオ構築、分散投資、アクセスといった要素は、しばしば見過ごされてしまいます。

いずれ、この状況は変わっていくと私は思っています。ビンテージや戦略、マネジャーのタイプごとにデータを細かく分析する投資家が増えていけば、きちんと設計されたファンド・オブ・ファンズの存在意義を無視することは、だんだん難しくなるはずです。

では、VCであろうが、ファンド・オブ・ファンズであろうが、このタイミングでファンドマネジャーができることは何でしょうか。

しばらくは、ファンドレイジングをするすべてのマネジャーは、「5倍ソフトサークル」マインドセットを持つ必要があると思います。目標ファンドサイズが1億ドルなら、実際には5億ドル分の関心・議論・パイプラインをつくらなければならない、と考えるべきです。ミーティングの数も、アップデートの頻度も、LPが本当にコミットを決めるまで一緒に過ごす時間の設計も、その前提に立って組み立てる必要があります。もちろんそれより上手くいけばそれはボーナスです。

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