#258 実はLPが負担するVCファンドの「見えないコスト」
先週、大学を卒業して入った最初の職場であるゴールドマンサックのオフィスを訪れました。古巣とはいえ、私が退職した10年前は六本木ヒルズの森タワーにオフィスがあったので、現在の虎ノ門の拠点を訪れてからは今回が初めての訪問です。仕事とはまったく関係のない訪問でしたが、自然とさまざまな記憶がよみがえってくる時間となりました。
オフィスから見える東京タワー
VCファームのキャピタリストやチームメンバーの給与、成功報酬であるキャリー。オフィスの賃料に、法務・会計費用、そして税金。スタートアップと比べれば費目は限られているかもしれませんが、VCもまた一つの事業体であり、運営には確実にコストが発生します。
問題は、それを誰が負担するのかです。
究極的に支払うのはGPかLPのどちらかしかありません。しかし経験の浅いLPにとっては、「管理報酬(マネジメントフィー)」と「成功報酬(キャリー)」以外にも、実はさまざまな費用を負担しているという事実は、あまり意識されていないかもしれません。
多くの運営コストは「ファンド費用」として処理されます。つまりLPが間接的に負担しているにもかかわらず、その内訳は見えにくく、詳細を把握するのも容易ではありません。日本でも比較的知られている設立費用に加え、監査費用、ファンドアドミン費用、役員賠償責任保険(D&O保険)なども、一般的にはファンド費用としてチャージされます。これは、管理報酬やキャリーとは別に、LPが支払っているコストで、あまり異論がない項目です。
ここでややこしいのが、「投資に直接関わる費用」です。
たとえば法務費用。スタートアップに投資する際、SPA(Stock Purchase Agreement)やタームシートなどのドキュメントを作成・レビューするための弁護士費用は、通常、投資関連コストとしてファンドから支払われます。ここまでも納得しやすいところでしょう。
しかし、この領域は往々にしてグレーになりがちです。
LPAには、どの費用をファンドから支払えるかが記載されていますが、かなり抽象的に書かれていることが多くあります。その結果、理論上は、ファウンダーに会いに行くための出張を過度に豪華にし、その費用をファンドに請求することも不可能ではありません。また、法務費用についても、十分なコスト意識を持たずに高額な請求を払い続けることが、規約上は許容されてしまう場合があります。
もちろん、LPとして投資検討の段階で、LPAにすべての費用項目を細かく書き込ませるのは現実的ではありません。ただ、ODD(Operational Due Diligence)として、これについて一度はGPと話しておくべきです。どこまでをファンド費用、すなわちLPが負担するものと考えているのか。その考え方自体を確認することに意味があります。
複数のファンドに投資しているLPであれば、横並びで比較することもできます。具体的には、費用込みのネットKPIであるTVPIを、投資成果そのものをグロースで表すMOICで割る方法です。仮に二つのファンドがどちらもMOIC 1.0xであるにもかかわらず、TVPIが0.8xと0.9xであれば、片方のファンドはもう一方より約10%多く費用がかかっていると推測できます。
VCにおいて、コスト管理は派手なテーマではありません。しかし、GPにとっては健全な運営の基盤であり、LPにとっては信頼を測る重要な指標になり得ます。
また、ファンドの費用を健全に運営することで、ファンドの実績であるTVPIは高まります。それはGPが受け取るキャリーの増加にもつながり、結果としてGP・LPの双方にとっての利益となります。
References
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