#249 成功した創業者出身のGPが陥りやすい罠

FOMOの過信
46(Youngrok) 2025.10.20
誰でも

先週はニューヨークへ出張に行ってきました。私たちのポートフォリオファンドの大体数は、結局シリコンバレーとニューヨークに集中しているため、アメリカ国内の出張先の中ではニューヨークが最も訪れる機会の多い都市です。行くたびに感じますが、ニューヨークにはやはりニューヨークならではの独特な“バイブス”があります。地下鉄は汚いし、治安も良いとは言えないですが、街全体に流れるあの独特の空気感には、言葉にしがたい魅力があります。もしサンフランシスコ以外の都市を選ばなければならないとしたら、私は迷わずニューヨークを選ぶと思います。

Midtown Manhattan

Midtown Manhattan

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創業者出身のGPには、ある共通した傾向があります。それはファンドレイジングの際に「FOMO(Fear of Missing Out、取り残されることへの恐怖)」を過度に利用しようとすることです。

もちろん、FOMOは魅力的な戦術です。「今投資しなければ、この好機を逃してしまう」という心理的な圧力は、スタートアップの資金調達の現場ではよく使われる典型的な手法です。人気の高いスタートアップであれば、投資家との間に緊張感が生まれ、その緊張感が投資を後押しします。

しかし、ファンドのファンドレイジングはまったく異なる舞台です。アメリカの場合、ひとつのファンドに参加するLP(出資者)の数は多く、50名を超えるのが一般的です。その多くの投資家すべてに同時にFOMOを感じさせるのは、現実的にはほぼ不可能です。また、スタートアップのように、1〜2名の大型投資家が一気にラウンドをクローズするような構造とは違い、ファンドでは1人のLPがすべてを決定づけることはありません。

もうひとつの違いは時間軸です。スタートアップの資金調達が数週間から数ヶ月で完結する短距離走だとすれば、ファンドのファンドレイジングは長距離マラソンに近いものです。多くのファンドは1年ほどかけて複数回のクローズを行います。したがって、「今回が最後のチャンスです」という言葉は現実と合いません。さらに、LPの意思決定には多くの段階があり、プロセスは慎重かつ時間がかかります。

そのような状況で「今週中にコミットしなければ参加できません」といった言葉を投げかけても、それは焦りのサインとして受け取られるだけです。LPはむしろ不安を感じ、距離を置こうとすることが多いです。市場には戦略も規模もリスク・リターン構造も似たファンドが数多く存在します。

ファンドレイジングで本当に重要なのは、一瞬の圧力ではなく、長期的な信頼です。 最終的にLPを動かすのは恐怖ではなく確信です。「逃したくない」という感情ではなく、「このGPと一緒にやりたい」という信頼。それこそがファンドレイジングの本質だと思います。

References:

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