#245 アーリーステージ投資の本質:不確実性とサプライズ

不確実性があるからこそ大きなサプライズが期待できる
46(Youngrok) 2025.09.22
誰でも

先週は私と妻、そして長女までもがノロウイルス(おそらく)にかかり、大変な思いをしました。大人になってから正気のまま吐いたのは一度きりだったのですが、今回その記録を更新してしまいました。悪寒や頭痛にも悩まされ、本当にきつかったです。火曜日には家全体の生活がほぼストップし、水曜日から少しずつ回復して、金曜日になってようやく普通の生活に戻ることができました。やはり…健康が一番ですね!

体がえらい時でも、いつも綺麗なサンフランシスコの午後の空

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私たちはファンド・オブ・ファンズとして、主にPre-seedやSeed段階のVCファンドに投資しています。このステージで必ず受ける質問があります。「まだトラクションがないのに、どのような基準を持ってPre-seed/seedスタートアップのデューデリジェンスをするのか?」というものです。さらに私たちは、そうしたスタートアップに投資するファンドに投資をするため、不確実性は一層大きく見えるかもしれません。

しかし、ベンチャー投資から不確実性を完全に排除することはできません。もし“八方美人”のようにすべてが揃った会社を探し当てたとすれば、その会社はもはやベンチャー投資の対象ではないです。不確実性が小さくなればなるほど、それはベンチャーではなく安定投資に近づいてしまいます。

ベンチャー投資の本質とは、社会や私たちの生活を根本的に変える可能性を持つ企業に賭けることです。Facebookはソーシャルネットワークを社会の中心に据え、Uberはシェアリングエコノミーを日常化しました。SpaceXは人類を地球外へ広げようとしています。いずれも始まりは不確実でしたが、やがて世界を変えていきました。

私はこの不確実性を、別の言葉で「サプライズ」と呼びたいと思います。最初は「これは一体何だ?」という疑問が、やがて「なるほど、こんなものがあったのか!」という驚きに変わる。その瞬間こそがベンチャー投資の醍醐味です。実際、私が以前勤めていた会社で投資をリードしたファンドは2018年にOpenAIに投資しました。当時は「何をする会社なのだろう?」と首をかしげましたが、「こんなことまでできるのか」と驚くまでに時間はかかりませんでした。目先の売上数字も重要ですが、長期的なビジョンとサプライズの可能性なのです。

もちろん不確実性はリスクでもあります。だからこそベンチャーファンドは広くポートフォリオを組みます。グロースステージやバイアウトファンドよりもはるかに多くの企業に分散投資するのはそのためです。ファンド・オブ・ファンズである私たちも、間接的により多くのスタートアップにアクセスでき、その結果、リスクを下げつつサプライズの可能性を高めることができます。

さらに「サプライズを見つけられるVC」とそうでないVCの差は明確に存在します。優れた起業家にアクセスできるかどうか、そしてそれを体系的かつ再現性をもって実行できるかどうか。この差こそが成功するVCとそうでないVCを分けます。そうしたVCに投資することは、結果的にリスクを減らすことにつながります。そして、そのようなVCを見極めて投資することこそが、私たちファンド・オブ・ファンズの重要な役割であり、LPが私たちに投資する最大の動機でもあります。

結局、アーリーステージのスタートアップに対する完璧なデューデリジェンスは存在しません。しかし、不確実性があるからこそ大きなサプライズを期待できるのです。そして、そのリスクを戦略的に管理することこそが、初期ベンチャー投資の真髄なのです。

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