#105 テック企業の割安買収が予想される2023年

今年に限ってはそこまで悪い話ではないかもしれない
46(Youngrok) 2023.01.09
誰でも

先週はサンフランシスコに戻ってきました。出張が多い僕にとって飛行機には慣れているつもりでしたが、赤ちゃんを連れて飛行機に乗るのは違うレベルの大変さがありますね。しかも、西に行く時より(例えば、アメリカ→日本)、東に行く時の方が時差ぼけが大変なので、せっかく調整できた睡眠スケジュールも乱れて、再び夜中に起きる日々になりました。幸いに赤ちゃんの時差ぼけは大人より早く治るみたいなので、あともう数日だけ頑張れば良い日が来ると信じています!

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2023年、VC市場は新たな局面を迎えると多くの人が予想しています。特に、今の市場環境ではもはや通用しないバリュエーションで資金調達したミドル・レイトステージのスタートアップは、そのバリュエーションに見合う会社になるために必死にコスト削減及び利益拡大を図ろうとしています。

一部のスタートアップは、そのどちらか、あるいは両方で成功するでしょう。2023年に中盤・後半にかけて手元資金が枯渇し始め、新たな資金調達をしないといけないタイミングが来ると、彼らの投資家との会話はまだ楽になります。しかし、どちらも達成できなかった会社は、資金調達に苦労することになります。その結果、より低いバリュエーションで調達するか、色々な条件がついてしまうストラクチャードラウンドで資金を調達するか、またはより積極的にM&Aの機会を探すことを余儀なくされるはずです。

これは一般的にバイアウトファンドと呼ばれるプライベート・エクイティ・ファンド(以下PEファンド)にとっては、2023年はより多くの買収機会が得られる年になることを意味します。まだポテンシャルの高い会社でも、資金調達に苦労する場合があり、PEファンドにとっては、そうした会社を割安な価格で購入するチャンスとなります。米国の大手PEファンドであるトーマ・ブラボ(Thoma Bravo)が先月買収したFinTech会社のCoupaは、良いきっかけになるのではないでしょうか。トーマ・ブラボは2021年後半に迎えたピーク価格の30%の価格で同社を買収しました。世界のPEファンドのドライパウダー(ファンドよりこれから投資に回される運用資金)は近年減少していますが、それでもまだ十分です。まだまだこのような買収が出る可能性はあるのです。

一見すると、VCの立場からは理想的とは言えないかもしれません。VCは、100倍のリターンを期待してそれらの会社に投資をしています。あまりに早く売却されてしまうと、高いリターンを得るチャンスも薄れてしまいます。

ただ、私は実は2つの理由から、必ずしも悪いことではないと思います。1つは、今のような不安定な年では投資家にキャッシュを返すことには意味があるということです。ですのでリターン額が期待よりは少額になってしまったとしても、何もないよりはマシなのです。

2つ目の理由は、機関投資家がVCファンドのパフォーマンスを評価する際にはヴィンテージ(ファンドが投資を開始した年)が重要視されるということです。つまり、同じ年に設立された異なるファンドのパフォーマンスを比較するのです。例えば、2010年に立ち上がったファンドと2015年に立ち上がったファンドのパフォーマンスを比較することはありません。2010年に立ち上がったファンドは2010年に立ち上がったファンドたちの中で評価をされます。したがって、みんなが大変な時にたとえ少なくとも、リターンがあるのとないのでは、VCのパフォーマンスの見え方が変わるのです。

上記の私の予測は、結果的に間違うかもしれません。VCファンドはドライパウダーを近年非常に多くなってきているので、優良スタートアップに関しては、PEファンドに安く買収されないように、支援し続けることもあるはずだからです。重要なのはどっちに転んだとしても悪い話ではないことです。

References:
・PitchBook Private Markets Fundraising Report 2022 Q2
・Thoma Bravo Is Buying Coupa Software for $8 Billion—and It Still Has a Ton of Money to Spend - https://www.barrons.com/articles/coupa-thoma-bravo-51670867248

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