#262 新しく組成されたアンドリーセン・ホロウィッツの2.3兆円ファンド
先週、娘の小学校訪問に行ってきました。アメリカでは日本よりも1年早く小学校に入学するのですが、TK(小学校前の準備段階)を設けている小学校もあり、今回はその学校を訪れました。
まだ4歳にもなっていないのに、もう小学校の話をしているという事実が、正直なところ実感として湧いてきません。けれど、これまで本当にあっという間に成長してきた姿を振り返ると、驚くことでもないのかもしれません。
一方で、どこか寂しいような気持ちがあるのも事実ですし、「時間はもう少しゆっくり流れてくれてもいいのに」と、ふとそんなことを思ったりします。
アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は、総額150億ドル(約2.3兆円)規模のファンドを組成しました。内訳は、American Dynamism(11.76億ドル)、Apps(17億ドル)、Bio + Health(7億ドル)、Infrastructure(17億ドル)、Growth(67.5億ドル)、そしてその他のベンチャー戦略です。ベン・ホロウィッツの発表によれば、これは2025年における米国全体のベンチャーキャピタルファンド調達額の約18%に相当します。
この数字は、単なる成功を超えています。現在のような環境下でこれほどの規模の資金を集めることは、大型ブランドであっても決して容易ではありません。今回のファンドレイズは、明らかにアウトライヤー(outlier)と呼ぶべき事例だと思います。
その背景には、三つの要因があると考えています。
第一は、ブランドです。
a16zのブランドは偶然に生まれたものではありません。2009年の創業当時、VCが自らをメディアのように運営する例はほとんど存在しませんでした。しかしa16zは、ブランドを単なる広報手段ではなく「インフラ」として捉え、一貫して構築してきました。
その結果、a16zはスタートアップやVC業界にとどまらず、一般層にまで認知を広げることに成功しました。数年前、ユナイテッド航空の機内でa16zのポッドキャストを見つけたときの衝撃は、今でもはっきりと覚えています。資本力だけでは差別化が難しくなったベンチャー市場において、ブランドは実質的な競争優位となり、a16zはその代表例の一つです。この点については、別の記事で改めて詳しく触れる予定です。
第二は、優れたIR(Investor Relations)です。
大型ファンドは惰性だけで組成されるものではありません。過去8年間にわたりa16zのIRを率いてきたジェン・カー(Jen Kha - Linkedin)は、業界内で高い信頼を築いてきました。IRは単なる資金調達機能ではなく、ファームの信頼性や拡張性を左右する中核的な戦略・運営機能であり、彼女はその重要性を体現してきたと言えます。
第三は、タイミング、そして「アメリカ」です。
ベンチャーキャピタルは、もはや地政学から切り離された存在ではありません。米中対立が示すように、テクノロジーは国家戦略の中核となり、米国のエリート層の間では技術覇権を維持すべきだという問題意識がますます明確になっています。
こうした文脈において、「再工業化(reindustrialization)」は一時的な流行語ではありません。ベン・ホロウィッツの発表文で繰り返し登場する「America-first」は、修辞ではなく投資ロジックとして読むべきものです。a16zのAmerican Dynamism戦略は周辺的なテーマではなく、このファームのアイデンティティそのものに近いと言えます。先に触れたジェン・カーのLinkedInのカバー写真も、その姿勢を象徴しています。
さらにa16zは、政策環境とのアラインメントという点でも独自のポジションを占めています。創業初期メンバーであり、『Secrets of Sand Hill Road』(日本語:VCの教科書: VCとうまく付き合いたい起業家たちへ)の著者でもあるスコット・クーパーは、現在、米国人事管理局(OPM)の局長を務めています。これは特定の成果を保証するものではありませんが、彼らの影響力を示す意味のあるシグナルだと捉えられます。
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もちろん、今回のファンド組成が将来のパフォーマンスを保証するわけではありません。ただしこれは、今日の米国ベンチャーキャピタル市場において、経済・政治・ベンチャー市場がどのように交差し、変化しているのかを示す重要なシグナルだと考えます。そして現時点において、その交差点の中心にa16zが位置していることは、間違いなさそうです。
References:
Why Are We Here? Why Did We Raise $15B? - https://a16z.com/why-did-we-raise-15b/
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