#63 VCの新しい勝ち戦略:他のVCへの投資

他のVCへの投資は戦略的に重要になってきている
46(Youngrok) 2022.03.21
誰でも

こんにちは!もう3月も半分以上が終わりましたね!もともと今週は韓国のソウルにいるはずだったのですが、行けなかったのが悔しく、その代わりサンフランシスコから北に車で3時間半ほどの距離にあるラッセン火山国立公園(Lassen Volcanic National Park)に行ってきました。 ここは1914年から1921年までわずか100年前まで火山噴出が起きた場所で、泥がぐつぐつ煮えながらものすごい硫黄の匂いを放つSulphur Worksという場所を含め、見どころが本当に多い公園です。 まだ雪が多くて部分的にしかオープンしてなかったのですが、十分にソウルに行けなかったことが挽回できたショートトリップでした!

Sulphur Works, Lassen Volcanic National Park (2022/3/20)

Sulphur Works, Lassen Volcanic National Park (2022/3/20)

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VCにとって他のVCファンドに投資することはタブー視されてきました。VCの仕事は、強い投資リターンが期待できる「スタートアップ」に投資することであり、他のファンドに投資することではないからです。

VCのルーツは、19世紀初頭の捕鯨遠征に始まります。ハイリスク・ハイリターンのこのビジネスには多額の資金が必要で、船長は様々な金融機関から資金を調達して探検を開始していました。調達した資金は船の建造、船員への給料、探検に必要な日々の運営に使うべきであって、他の捕鯨船に投資してはいけません。彼らは、他の捕鯨船ではなく、鯨を見つけることが期待されているからです。VCも同様です。他のVCではなくて、スタートアップを見つけることが期待されています。

このため、VCは他のVCに積極的に投資することはありませんでした。たとえ投資をしていたとしても、あまり公にはしていなかったのです。去年の11月に私がVCエコシステムの新しい食物連鎖について書いたときでさえ、VCが他のVCに投資していることはそれほど公にはされてませんでした。

しかし、最近風向きが変わってきています。より多くのVCが他のVCに投資をするようになりつつあり、VCの重要な戦略の一つとして位置づけされ始めています。レディット(Reddit)の共同創業者でテニス選手のセリーナ・ウィリアムズ氏(Serena Williams)の夫でもあるアレクシス・オハニアン氏(Alexis Ohanian)は、最近Forbesのインタビューに応じ、自分のVCである776の新しいVCファンド投資プログラムであるタイタン・ファンド(Titans Fund)について紹介しました。また、タイガーグローバル(Tiger Global)が他のVCへの約1千億円($1B)をコミットしたという話も先日The Informationで紹介されています。

これは非常にグッドニュースです。私は常々VCによる他のVCへの投資は必ずしも悪いことではなく、むしろ積極的に行うべきであると考えていました。上記の食物連鎖の記事でも書いたように、776やタイガーなどのVCは、小型のマイクロファンドに投資をしていて、投資の主目的はスカウトとしての良いディールをソーシングすることです。

彼らは大型捕鯨船で、より多くのクジラをより早く見つけるために、多くの小型捕鯨船に投資しているようなものです。クジラがそれら小さな船にとって大きすぎる場合、キャパが大きい大型捕鯨船と一緒に仕事をすることでWin・Winな関係が作れます。下記のチャートの通り、スタートアップ(またはクジラ)の数は年々増え続けており、大きな船が小さな船の助けなしにそれらすべてを見つけることはますます難しくなってきているのです。

シードラウンドのディールの数(紺色の線)は、過去10年間着実に増加している(データソース:Pitchbook)

シードラウンドのディールの数(紺色の線)は、過去10年間着実に増加している(データソース:Pitchbook)

VCの他のVCへの投資を推奨できるもう一つの理由は、大型VCがさらに大きくなる一方で、マイクロファンドの数がものすごい勢いて増えてきているという二極化が進んでいるからです。776の最新ファンドは約500億円($500M)で、マイクロファンドに5千万円を投資します。10社に投資をしたとしても5億円、すなわち全体ファンドの1%にしかすぎません。しかし、マイクロファンドは規模が非常に小さいので、5千万円でも十分な金額です。5億円のファンドであれば、すでに 10%です。ベインキャピタルや他のVCは5千万円よりも小さい金額の投資をしており、彼らの巨大なファンドの規模に比べれば、本当に大したことはないのです。

もっと重要なことは、これはコストではなく、投資であることです。小さなファンドの中には、10倍、20倍、50倍といった非常に魅力的な投資リターンを生み出すところもあります。なので、他のVCに投資することは、彼らにとっては、ある意味当然のことなのです。そのVCとの関係性を築きながらディールのソーシングをし、さらにお金まで稼ぐことができるのです。やらない理由がないのです。

大型VCと小型VCの両方に投資するファンドオブファンドのマネージャーとして、私はファンド投資市場が急速に変化していることを実感しています。VCによる他のVCへの投資は多くの変化の一つに過ぎません。多くのこれからの変化も楽しみです。

References:
・Everyone is going to launch a fund that backs other funds - https://techcrunch.com/2022/03/14/tiger-776-emerging-fund-manager 
・Seven Seven Six Seeds A Cohort Of New Micro Funds - https://www.forbes.com/sites/rebeccaszkutak/2022/03/10/seven-seven-six-seeds-a-cohort-of-new-micro-funds/?sh=3c4777d8397e 
・Bain Capital Ventures raised $1.3 billion to fund young startups, and young VC firms, too - https://techcrunch.com/2021/05/20/bvc_fund_nine/ 
・Tiger Global Partners Commit $1 Billion for Early-Stage Tech Funds - https://www.theinformation.com/articles/tiger-global-partners-commit-1-billion-for-early-stage-tech-funds?rc=6eiuc8

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