#150 未来の設計図を描くディープ・テック

国内VC市場のオポチュニティーになるかもしれないディープ・テック
46(Youngrok) 2023.11.20
誰でも

先週は弊社の姉妹ファンドで、米国で直接投資を行うGFR Fund、そして日本でファンド投資や直接投資を行うGREE Venturesのメンバーと一緒に香港に行ってきました。 私は9年ぶりに香港に行ったのですが、その間にたくさんのことがあったし、今はどうなっているのか少しだけ心配していました。でもいざ行ってみると思っていたよりもはるかに街に活力もあり、人々からもエネルギーを感じることができました。とはいえ、米中対立による不確実性で、まだ中国への投資を再開するのは慎重というのが支配的な雰囲気でしたが、いつか良い投資機会がまた出てくるのではないかと思いました。とにかく香港は1,2年に一度は行ってみようと思います!

泊まったホテルの周辺

泊まったホテルの周辺

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私たちのポートフォリオでもあるNFXは、シリコンバレーのトップブランドを持つVCです。 すごい経歴を持つ3人の創業GPによって設立されましたが、例えば、創業メンバーの一人であるピート・フリントは自分のスタートアップであるTruliaをナスダックに上場させた後、Zillowに35億ドル(約4千5百億円)で売却した経歴を持ちます。

そんなNFXが先週、LP向けにポートフォリオ会社の一つであるマンモスバイオサイエンス(Mammoth Biosciences)社の訪問イベントを開催しました。NFXは2017年、まだ同社がプレシード段階だった頃から投資をしています。それ以来合計300億円以上の資金調達を行い、2021年にはユニコーンになりました。 今回の訪問では、共同創業者兼CEOのトレバー氏から直接話を聞き、ラボの見学をしました。

簡単に言えば、マンモスバイオサイエンスは、クリスパー(CRISPR)技術をベースに、病気の診断と治療を行う遺伝子治療技術を開発する会社です。最近、ジェニファー・ダウドナの話を描いた「コードブレイカー」という本をとても印象深く読みましたが、このジェニファー・ダウドナは2020年にクリスパー研究でノーベル賞を受賞した人物です。 がんのような病気は、私たちの体の設計図と言えるDNAの欠陥から来ることがありますが、遺伝医技術の画期的な発展であるクリスパーを通じて、より正確かつ永久的に欠陥のあるDNA自体を直すことができます。ジェニファー・ダウドナはマンモスバイオサイエンスの共同設立者の一人でもあります。

今回の訪問で会った現CEOのトレバー(左から2番目)とジェニファー・ダウドナ(右から2番目)を含むマンモスバイオサイエンスの共同創業者たち

今回の訪問で会った現CEOのトレバー(左から2番目)とジェニファー・ダウドナ(右から2番目)を含むマンモスバイオサイエンスの共同創業者たち

今回の訪問で一番良かったのは、未来についての議論でした。CEOのトレバーは、2,3年後ではなく、今後20~30年先を見据えた会社づくりをしていました。人類の生活を完全に変えることができるバイオテクノロジー分野のGoogleやAppleのようなプラットフォームになることが目標です。ほぼすべての病気を事前に診断することができ、また治すことができれば、どんな世界が来るのでしょうか。そうなれば、人々の寿命はもっと延びるということになりますが、それでは私たちの社会はどんな風に変わるのでしょうか。ファンド・オブ・ファンドのマネージャーとしての私の仕事は、VCを通じて未来を創る技術革新に投資をすることです。今回の訪問で、私がその取り組みの一部であることを改めて確認しました。

バイオテクノロジーはディープ・テック(DeepTech)の一分野であり、ディープテックはVCの関心分野で最も急速に成長している分野の一つです。ディープテクノロジーの成功には、広範で質の高い科学研究が必要ですが、科学研究に関しては、日本と韓国は世界的に強い地位を築いています。世界で最も著名な科学ジャーナルであるネイチャーによると、日本は6位、韓国は8位にランクされています。もちろん、日本は近年スコアがどんどん下がっており、韓国も理工系人材の不足により、長期的にも競争力を持つことができるかどうかは大きな疑問符が残る部分です。

Nature Index

Nature Index

私は今後、ベンチャーキャピタル投資においてディープテック、より広くは科学技術がより重要になると思います。ハイリスク・ハイリターンに代表されるVC投資の性格ともよく合致します。このような私の予測が正しく、日本と韓国が科学技術競争力が引き続き上位を維持し、またそれぞれ国のVC投資環境が継続的に成熟していけば、日本や韓国は今後VC投資にとって興味深い地域として発展できるかもしれません。

References:

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