#55 CVCシリーズ① 運営意義:パートナシップ?買収?情報獲得?投資リターン?それとも単なるFOMO??

CVCの投資意義を考える
46(Youngrok) 2022.01.24
誰でも

みなさん、こんにちは!早くも1月の最終の週になりました。サンフランシスコも先週からは急に天気が暖かくなって、昼は20度くらいまで上がってきました。すでに春を感じます。

さて、最近CVCに直接または間接的に関わっている方々と話をする機会がありましたので、私の過去5年間の米国でのCVC投資経験をもとに、今後数回に分けて、日本CVCの米国投資にまつわる話をしていきたいと思います。第一弾となるのはCVCを運営する理由の一つである事業シナジーを狙うパートナシップについてです!

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年々投資額の増加と共にその存在感が増しているCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル、事業会社の投資組織)は、多くの人にとって今や聞き慣れない言葉ではない。

アルファベット(元Google)のCVCであるGVは最も活発で影響力のあるCVCの一つだろう。SamsungはSamsung NextというCVCを運営する。トヨタ自動車は、トヨタベンチャーズとは別に、2020年にWoven Planetという研究・投資会社を立ち上げている。その投資部門であるWoven Capitalは、彼らのホームページによると$800M(約800億円)の巨額ファンドを持つ(ただ、投資活動はあまり見かけない)。

上記の3社を含め、CVC各社ともなぜCVC投資を行うのか、その理由は様々だが、主に5つに集約されると考えられる:パートナシップ(事業シナジー)、買収、情報獲得、投資リターン、単なるFOMO(Fear Of Missing Out、フォーモ、取り残されることへの恐れ)。それぞれCVCはその中の一つ、または複合的な理由でCVC投資を行う。

パートナーシップ(事業シナジー)

これはよく耳にするCVCを営む理由の一つだろう。スタートアップに投資をし、パートナシップを結ぶという形だ。損保ジャパンがパランティア(Palantir)に投資、日本で50:50のジョイント・ベンチャーを立ち上げているのは良い例である。

スタートアップ投資を通じた事業開発・事業シナジー創出は決して簡単ではなく、殆どの場合うまく行かない。その中、損保ジャパンの事例は企業によるスタートアップ投資の成功事例の一つだろう。そのジョイント・ベンチャーが日本でどのくらいうまく行っているかに関係なく、このディールを主導した投資担当者からすれば、投資を通じて意義のある事業を作ることが目標だったはずで、それを見事にやり遂げたのだ。あとは事業責任者の役割になる。

他の好例として、今はHeadlineのパートナーを務める岡本さんがMUFGのCVC事業であるMUIPの副社長を務めていた時にリードした、イスラエルのLiquidityというFinTechスタートアップへの投資だ。この投資は後にシンガポールでMars Growth Capitalというジョイント・ベンチャーの立ち上げにつながったCVCの成功ストリーの一つである。まさにCVC投資からパートナシップまで繋がったモデルケースと言える。

しかし、いくつかの注意点がある。まず、これらの実績は必ずしもCVCを通じた投資ではないということだ。MUFGはCVCを通じた投資であったが、損保ジャパンの場合はCVCを介さずに直接Palantirに投資している。それにも関わらず米国のスタートアップシーンで最も影響力のあるピーター・ティール(Peter Thiel)が創業したパランティアに投資し、見事に日本で事業まで興すことができた。

もう一つは、レイトステージでの投資であったことである。損保ジャパンはIPO直前のパランティアに5億ドル(約500億円)を投資している。当時パランティアは創業17年目を迎えていていて、評価額も2兆円以上。会社としてかなり成熟している段階で、海外展開の準備もできていたはずだ。

その反面、CVCの多くはアーリーステージにフォーカスをする傾向があり、パートナシップを訴えながらシードステージのスタートアップをターゲットにしていることがある。しかし、シードステージやシリーズAステージのスタートアップで、海外展開の準備ができている米国スタートアップがどれだけあるだろうか。殆どの場合、最初のプロダクトの米国内におけるPMF(Product Market Fit)を探すのにいっぱいで、海外まで目を向ける余裕はない。CVCのミッションがアーリーステージのスタートアップとのパートナーシップの機会を見つけることであるならば、必然的に対象となるスタートアップの母集団は小さくなる。

ただし、最近一部の領域においては、アーリーステージでもプロダクトがずいぶん成熟してきていたり、海外進出のハードルが低くなってきている。例えば、クラブハウスのようなToCプロダクトは良い例だろう。ローカライズをしなくても、世界の人々がすぐに使えるプロダクトだ。NotionのようなSaaSプロダクトも良い例で、必要最小限のローカライズ(価格設定および多言語化)で海外展開ができる。実際Notionは、早期にローカライズに成功したスタートアップの一つで、日本や韓国で早くから人気を博した。現在、日本と韓国は、Notionのウェブのトラフィックで1位の米国、2位のブラジルに次ぐ世界3番目と4番目に大きな国である。

もちろんMUFGのFinTech事例のような例外もある。しかし、領域や投資ステージによって難易度は著しく変わっていくので、アーリーステージをターゲットにするのであれば、慎重に対象領域を決める必要があるだろう。

さらに重要なのは、パートナーシップにおいて、投資というのは必ずしも必須前提ではないということだ。お互いに資本関係を持つことで、企業とスタートアップの間に強い絆を作ることができるが、その強い絆が必ず必要なわけではない。

Samsungは、私の前に務めていた会社の出資先であるDirectlyというスタートアップのクライアントだった。カスタマーサポートの業務においてDirectlyのサービスを使っていたが、のちに彼らのCVCであるSamsung NEXTを通じて投資家にもなった。資本関係を結ぶのを結婚に例えると、まずはお付き合いをし、その後結婚まで結びついたというわけだ。

アーリーステージのスタートアップには大きな不確実性が伴う。途中でビジネスモデルを大きくピボットするかもしれないし、もっと優れたプロダクトを持つスタートアップが現れるかもしれない。このように不確実性が多いときに資本関係を結ぶには、強い確信及び長期にわたるコミットメントが必要になる。

決してCVCがパートナーシップを目指すべきではないと主張しているわけではない。実際、先ほどのDirectlyのケースの場合、マイクロソフトのCVCであるM12は投資家になるのと同時にクライアントにもなった。繰り返しになるが、MUIPとMars Growth Capitalの事例もある。なので、ここで伝えたいのは、投資のステージや領域など、いくつか慎重に考慮すべきニュアンスがあり、投資が必ずしもパートナシップに必要な手順ではないということだ。CVCの戦略を立てるにあたり、これらの要素を慎重に検討する必要がある。

References:

Toyota Research Institute - Advanced Development, Inc. (TRI-AD) announces it will expand and improve its operations by forming Woven Planet Holdings and two new operating companies, Woven Core and Woven Alpha - https://global.toyota/en/newsroom/corporate/33786527.html  

Directly nabs $20M led by Samsung to help make customer service chatbots more intelligent, adds new CEO - https://techcrunch.com/2020/01/28/directly-nabs-20m-led-by-samsung-to-help-make-customer-service-chatbots-more-intelligent-adds-new-ceo/  

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